「ねぇねぇ、新しく来た勇さまの・・・」 「あっ、知ってるー!私昨日廊下掃除してたらね、」 「えー、どんな方なのかしら?全然見かけないのよねー」 「でもいきなり結婚だ、とか言ってたみたいだけど」 「あの勇さまがとうとう結婚?!信じられない!遊びたい放題だったって噂よ」 「ちょっとー、はるとたえに聞きましょうよ!」 気まずいのだけど。 とても。 あの勇さまが結婚って事は今までそういう話はなかったってことなんだろうけど。 かなりの気まずさを抱えながら、私は廊下を歩いていた。まさかこんなところにほいほいと 歩いていると思わないから、気にも止められないのだろう。 会話はとっても気まずいし、彼女らの中ではすでに想像上の が出来あがっている訳だし。 部屋から滅多に出てこないから、奥ゆかしくて、とっても大人しくて・・・って、 そんな女の人だったらきっと勇さんにはついていけないだろう。 いや、自分がけして女らしくないとかそういうんじゃないよ?そういうことじゃないんだけどね! ・・・・ってなんで私心の中でこんなに言い訳しているんだ・・・。 宮ノ杜の6人兄弟、そんでその6人のお父さんである当主さん以外にあまり会う事はないので、 そういう噂を良く立てられてしまう。 あーあとは千富さん、はるさん、たえさん、あとは当主さん付きのえーっとなんていったかな・・・忘れたけど、 まぁそこらへんが私の知り合いといえる範囲だろう。 そんな事を考えた朝、そこから庭をぶらぶらしていれば、同じくぶらぶらしていた茂さんに会い、お茶に誘われた。 誘われたのでほいほいとついて行く。 そう茂さんはこんな風にぶらぶらしているとどこからか、ふらぁっとやってきてお茶に誘ってくれることがしばしばある。 暇つぶしに呼ばれるのか、興味本位で近づかれているのか分からないけれど、昼間はほとんど勇さんを含め、務め先に出てしまう人、 学校に行ってしまう人ばかりなので、構ってくれる茂さんには随分と懐いてきていた。 しかも茂さん、面白いので、ついつい話が弾んでしまうのだ。一応くだけた仲にはなったかな、なんて考えてみたりして。 さぁどうぞ、と招き入れられた部屋には すごくいい香りのお茶とおいしそうなお菓子が用意されていて、見て思わず顔がほころんだ。 茂さんはゆっくりとした動作でお茶を口に運んだ、まぁ優雅だなぁ、なんてぼーっと見つめてみる。 すると茂さんと目がぱちりとあったので、私は今朝の噂の中で少し気になったところを聞こうと口を開いた。 努めて真剣な顔で、かちゃんとお茶を机に置いて切りだした。 「あの、茂さんにお聞きしたいんですけど・・・・・」 「なぁに?」 「勇さんってやっぱり遊びたい放題な方なんですか?」 「ぶっはっ!!げほっげほげほ、ちょ、ちゃん?!何言ってるの、あー、もう濡れちゃったじゃない」 「あらま、大丈夫です?まったくもー、ほら、シミになりますよ」 「あ、ありがと」 「いえ、シミになると抜くのが大変ですからね。使用人の方々に迷惑掛かりますし」 「・・・・今のお礼の言葉撤回したい気分」 「何言ってるんですか!ほんとに茂さんはかわいくないですねー!」 「君に可愛いとか別に思われたくないし!というかうちの兄弟で可愛いとか・・・」 「いますよ、5男から下の子はかわいいじゃないですか」 「ちゃん?!俺は今耳を疑ったよ、まぁ博は可愛いとこもあるけど、雅は・・どう考えても氷点下でしょ」 「ちっちっち、分かってないですね、茂さん」 指を茂さんの前で振れば、茂さんは顔をゆがめた。 この宮ノ杜の兄弟たちは皆、それぞれ顔は整っている為に、少しくらい嫌な顔したってちっともその美形度は下がらないんだけ どね・・・。 というか雅くんはあの素直じゃない所が可愛いのよ!博くんは犬っぽい可愛さががあるし、雅くんは猫っぽい可愛さなの! ってなことをかなりこの時代の人にも分かりやすく説明したつもりだったけれど、茂さんの歪んだ顔は さして元には戻らなかった。 まぁ・・・結構雅くんにやられてるもんね、しょうがないよね茂さんは・・・、という目で見れば、 君の方が兄弟である俺よりも仲がいいってちょっと変な感じだよねぇ、なんて茂さんは少し柔らかく笑った。 「それで本題なんですけど、今朝勇さんが遊びたい放題って話を聞きましてね」 「わ、話戻した!忘れたかと思ったのに〜」 「いやいや、これが聞きたかったんですよ。博くんと雅くんは聞かなくてもかわいいですし」 「ちゃん・・・、勇兄さんの浮気を心配してるの?」 「いや、それは別に。ただ使用人さんの間で噂になるくらいだから相当なのかなぁって」 「あ、そこは淡白なんだね、うん、それはまたちゃんらしいというか・・・。勇兄さんが聞いたら泣いちゃ、」 「そうですか?」 こて、と首を傾げてみれば、茂さんは苦笑で返す。 泣いちゃう勇さんとか想像出来なさ過ぎて、脳が想像する事を拒否してしまうのだけれど、茂さんの脳内では そんな想像が繰り広げられているらしい。 それに勇さんは私を犬だか猫だかで、そんなペットみたいな感じで接していると思うので、そこまで 執着しないだろうなぁなんて考えているのだけれど。 探してくれるのも、ペットが迷子になるのが、って感じだし。結婚とは言っても、そんな遊んでる人とは 苦労しそうだしなぁ・・・正さんか進さんか・・・うーん、将来に掛けて雅くんとかもいいかもしれない。 「あ、あの、さぁ。ちゃん?」 「なんですか、茂さん」 「後ろ、」 「はい?・・・あ、勇さんおかえりなさいー」 「只今帰った。・・・・、」 「はい?ってうわぁああ!?えっ、ちょ、勇さん?!」 「茂となに、夫婦のようなやり取りを交わしているのだ、許さん!」 「え?はい!?」 「えー、ちょ誤解誤解、勇兄さん!俺は関係ないってば!」 後ろからいきなり抱えあげられて何が何やらまったく分かっていない私の視界に、慌てて立ち上がり弁明を繰り広げる茂さん が見える。 しかし茂さんが何か喋るたびに、きゅっと腕の力が強くなるので、息苦しくてたまらない。 なんとか絡みついた腕から抜けだそうとしていると、はいはいはい!夫婦水入らずでね!なんて言って茂さんはばたばたと部屋から出て行ってしまった。 ちょ・・・!茂さん?!私あんまり本題の事聞いてないんですけどー!なんて目線はなんのその、 無情にも扉はばたん!と大きな音を立てて閉じた。 「、」 「だっ、い、勇さん?くる、苦しいですってば!」 「す、すまぬ、・・・・悪かった」 「どうしたんですか、もう!」 「が茂と名前を呼び合っているのを見て、ついな」 「ついで首しめちゃうんですか?!勇さんは!さすが軍人ですね・・・って感心するところじゃありませんけど」 「ふん、まぁな」 「いばる所でもありませんけど」 「騒いだら喉が渇いたな、・・・・、茶を寄こせ」 「はいはい、あ、紅茶かコーヒーしかありませんけど」 「返事は一回、短くだ。それに紅茶に珈琲だと?日本茶はないのか?」 「ええ、今日は、紅茶を楽しもうの会だったので。良い香りがするんですよー」 「・・・・・まぁ良い、紅茶にする」 「日本茶じゃないですけど良いですか?珍しいですね」 目を瞬かせると、またしてもふん!とさっきまで茂さんが座っていた椅子に勢いよく座る。 制服に付いているバッチやら勲章やらがちゃらちゃらと音を立てる。椅子に座ってもふんぞり返って、腕を組む 勇さんを見ていると、本当にこの人何にしても偉そうだなぁ、という感想しか出てこない。 茂さんと名前呼び合っていただけで首絞めに走るという事は、先ほどの心の声(つまり、結婚するなら、正さんか進さんか、 雅くんかというくだり)を聞かれていたら死んでいたかもしれない。ははは・・笑えない・・・ありえすぎて・・・ 例によって、顔は美形なもんだからあんまり文句を言おうという気も起らないんだけれど。 不機嫌そうな彼が紅茶を飲むのを見て少し笑うと、勇さんは目を少し驚いた様に開き、それからゆっくりと 口の端を上げた。 「ばたばた騒ぐ貴様も良いが、そうやって笑っている貴様も変わらず良いものだな」 緩やかな時間を 過ごさせて? 「勇さん勇さん、」 「なんだ」 「これ、今日お庭で頂いたんです、見事な芍薬でしょう?」 「ふむ、貴様は花が好きであったな」 「そうですね、どの花も好きです」 「・・・庭に行くか、」 「はい!」 「返事は短く!」 「はっっっ!!」 「・・・・・・・これを夫婦だと言わずしてなんとするか・・・・!」 「あれ、茂ー?なにやってんの?」 「ひ、博!こ、こら!あっち行きなさい、しっしっ!」 「茂酷い!もう!なんなんだよー!」 (back) |