吹きつける風が随分冷たくなった。
それと同時にここに来てからの数か月を振り返ってみれば、かなり色々な事が起こったはずなのに、 あっという間だったな、と感じる。ひょんなことからここにきて、変なタイミングで勇さんと出会った事が随分昔の様だ。
それでも自分が眠っていた花壇は来たばかりの頃と同じように、そのままの形で人型にくりぬかれたままで残っている。
あんなにくっきりと形が残るって私の体重って一体・・・もしくは私がそこで寝てた事で、一生花が 咲かない環境になっちゃったとか・・・?そうであったのなら深刻な問題で、申し訳ないばかりだ。


さむいさむいさむい、と思うほどに今日の天気はあまりよろしくない。
気候の変化と風の冷たさは、私の身体をぐんぐんと冷やしていく。
庭に出ている人や、外に向かう人は厚手のコートを羽織っているくらいなので、もう本格的に 冬の訪れを感じてしまう。そんな事を考えてぼけっと突っ立っていれば、後ろから厳しい声が飛んできた。



様!!この様なところにいらっしゃったんですか!お戻りになってください!」
様、お姿が見当たらないので、心配しました・・・!」



いつもの2人組に、見つかってしまったようだ。そういえば今日はなんだか食欲もなくて、朝ごはんも あまり食べられなかったから、余計に心配を掛けていたみたいだ。
大丈夫だよ、と笑って振り返ろうとした私だったが、その反動でふらりとめまいがする。
頭を押さえて少しよろめいたけれど、笑顔を作れば、たえさんは眉をひそめて、はるさんは心配そうな顔を 崩さず慌てて駆け寄ってきた。


「もしかしてお風邪を召されたんじゃないですか!!こんな薄着で外なんか出るから・・・!」
「た、たえちゃん!早く様をお部屋に連れて行ってあげたほうが・・・!」
「分かってる。急ぐわよ、はる」
「うん!」



思えばここに来てから健康そのもので、病気なんかしなかったのになぁ。 久々なこの気だるげな感じはやっぱり風邪だったのか。
そんな能天気な事を考えているとあれよあれよと言う間に肩を貸されて、私は屋敷へと強制送還される。
まさかの事態に焦る声が耳元で響く。 ぼやぼやしている内に症状は深刻になっていたのだろうか、手足に力が入らなくなってきた。
たえさんとはるさんにはとても心配を掛けてしまっている、と 思いながらも私は、落ちていく意識をもう引き上げることなんて出来そうになかったのだ。















「・・・・お目覚めですか!様!」
「うん・・・・?はるさん・・・?」
「はい、御気分はいかがですか?熱は・・・まだ少しあるので安静にしててくださいね」
「この寒いのになんで外に突っ立ったりするのか、理解に苦しむ」
「・・・・・・・あれ、正さん?」
「あの後、様意識を失ってしまわれて、そこに正様が通りがかられてですね、その、」
「運んでくださったんですか・・・・?」
「まぁ、そう言う事だ。たまたまだ、たまたまだぞ。まったく、なんで私がお前の・・・」
「はい・・・ありがとうございます」
「・・・!お前が殊勝な事を言うとは珍しい、余程体調が悪いみたいだな」
「こ・・・・」
「こ?なんだ?なにか欲しいものでもあるのか」
「腰痛めてませんか・・・?」
「余計なお世話だ!お前なんか黙って寝ていろ!!・・・・こほん。ま、まぁ・・・・今は安静にする事だな」
「すみません・・・」



真面目に心配だったのに、怒られてしまった。 謝罪は色々な意味を込めたのが伝わったのか、青筋を立てていた正さんは、真面目な顔に戻してそんな事を言う。
布団を少し引き上げて顔を隠すようにすれば、正さんは少し笑った。 その呆れた顔がちょっと優しげだったので、私は安心した為かまた瞼が重くなる。
それにしても正さんは今日は家で仕事をしていたのだろうか。正さんはいつもいつも仕事だから、お休みの日も 仕事をしている事が多い。 今日は多分お休みだったのだろう。それなのに手間を掛けさせて申し訳ないと思ったので、今度私が元気になった時には 肩でも揉んであげなくちゃ、とそんな事を思いながら、私はまた眠りに着いたのだった。















っ!が倒れたって本当!!千富ぃ、どうしよ、は大丈夫なの?!目、覚めないけど本当に大丈夫?」
「うっ、五月蠅いなぁ!馬鹿じゃないの、この寒い中薄着でなんて。倒れて当然」
「博様、雅様、大丈夫ですよ、暖かくして栄養のあるものを食べれば治るとお医者様も言っておりましたよ」
「し、心配なんてしてないっ!」
「はいはい。では私はおかゆを用意してまいりますので、少しの間様を見ていてあげてください」
「うん!分かったよ。・・・・でもそっか、良かった〜!!は大丈夫なんだね、早く治らないかなぁ」
「は?そんな早く治る訳ないだろ?博は本当に馬鹿なんだから」
「馬鹿馬鹿って言わないでよ、もう!!なんでそう言うことばっかり言うんだよ!」
「馬鹿を馬鹿って言って何が悪い訳!?」
「雅こそなにいらいらしてるんだよ!」
「・・・あの・・・・・・・2人とも?学校終わったの?おかえり」
「あっ、〜っ!」
「お、起きてたなら早く言いなよね!!」


一度落ちたはずの眠りから、少し騒がしくなった部屋のおかげで覚める事が出来た。
目を覚ませば、学校から帰って来たのであろう、博くんと雅くんがべットの横に立って口論をしていた。 しかししっかりと被っていたはずの布団が肩からずり下がって、少し寒いなと思ったら、両手を 2人に掴まれていた。どうも寝起きだから反応や感覚が少し鈍っているようだ。
それを指摘すると博くんはにっこりと笑ってベットサイドに膝をついて、ベットにもたれかかって来た。 それとは逆の左手を掴んでいた雅くんは、指摘されるや否や、ベットに私の手を投げつけるようにして 勢いよく手を離して、そっぽを向いてしまった。・・・・本当に対照的な反応だ。
いや・・私、一応病人だからね・・なんて少し言ってしまいたくなるけれど、この2人とも心配してきてくれたんだろう。 にこにこと頭の傍で肘をつく博くんと、突っ立ったままこちらを見てくれない雅くん、反応こそ対照的だけれど どちらも気持ちは同じだとそう思う。
そんな事をぼうっとする頭で考えていると、ねぇ、と静かに声が聞こえた気がした。今の幻聴?だなんて一度聞き流すと、 苛立ったように雅くんがこちらを見て、目を合わせてくる。どうやら先ほどの呼びかけは幻聴でもなんでもなく、 私へと掛けられたものだったらしい。



「ねぇ、なにか欲しい物ないの?」
「欲しい物・・・?」
「だから!喉乾いたとか甘い物欲しいとか!」
「うーん、そうだなぁ、しいていえば果物食べたいかも」
「果物ね・・・・うん」
「なになに?雅?買ってきてあげるの?」
「うっるさいなぁ、ほんと博は!!」
「なにそれ、うるさいのは雅でしょー?お見舞い買いにいくなら、俺も行くー!」
「本人の前で言わないでよ!!・・・・・・こっそり行こうと思ったんだから・・・・」
「・・・・・雅、本当に買ってきてあげようと思ってたんだー・・・」
「そ、んな訳ないでしょ!!!」
「はいはい、」
「・・・聞こえてたらどうしてくれるのさ!!お前のせいで台無しになるんだからね」
「大丈夫だよ〜・・・ってあ、寝てる」
「・・・・・・・ふん!」















そうしてまた何時間か経ったのだろうか。
次に目を覚ました時にはすでに日は傾いていて、 室内は薄暗く夕日が差し込む時間になっていた。
幾分か身体は楽になっていた。きっと薬が効いてきたからだと思う。 そんな事を思いながら、虚ろな目で天井を見ていた視線を横にずらした。



「勇、さん・・・?」
「ようやく目が覚めたか」



すると 隣に椅子を引っ張ってきて座っている勇さんが視界に入って来た。
膝に肘を乗っけていて、そこに顔を埋めていたものだから最初はまったく表情が読みとれなかったのだけれど、 声をかければ、勇さんは顔を上げて私の呼びかけに応えた。



「また眠りについてしまったのではと思ったぞ」
「はは、それは・・・また・・笑えないですね」
「俺のシュネーヴィトヘン・・・・今はただシュネーヴィトヘンというだけではないのだからな、
「・・・・」



病人である私よりも気分が悪そうにそう眉をひそめる勇さんを見て私は無意識に手を伸ばしていた。
なぜかいつもとっても偉そうで、唯我独尊自己中俺様な勇さんがそうは見えなくて、少しだけ寂しそうに見えたのが 原因かもしれない。 いつだって、俺が一番で一番偉いのは俺、というスタンスを貫いていると言うのに、これはどうしたことか、と 私が少し心配になってしまったからかもしれない。
どちらにしても彼のその沈んだ表情を見てしまったら、私は何故かそらそわと落ち着かない気分になったのだ。



「冷たい・・・」
「貴様が熱いのだ。馬鹿者」



絡み合わせた指がひんやりとした冷たさを伝える。 熱の高さ故にそれが顕著に伝わってくる。
きゅっと握れば、驚いた様にこちらを見て、そして笑顔になり、ぎゅっと握り返してくれる。
この人、やっぱり優しいなぁ。なんて何度も思った事を心の中で思う。
彼の様な人が、このような表情を持つ事を私は知らなかった。願わくば、いつもの偉そうな勇さんに戻ってほしい。
なんだ?と怪訝そうな顔を寄こした勇さんに私はそっと微笑んだのだった。










寂しさから掬いあげて

「というか布団積み過ぎじゃないですか?すごい重いんですけど」
「風邪の時は温かく。これが基本だと千富が言っていたからな」
「限度ってもんがありますよ・・潰れる・・うう」
「軽い布団を持ってこさせるべきだったか。・・・・ん?なんだこれは林檎か」
「あっ、それきっと雅くんが持ってきてくれたん・・あーーー!ちょ、そんな全部食べちゃわないでくださいよ!」
「ふん、別に俺がいつ何をどこで食おうと勝手だろうが」
「違いますよ、それは雅くんが持って来てくれた特別な林檎なんですよ。そんなに食べたいなら、千富さんに言って、 他のやつ持ってきてもらえばいいじゃないですか!」
「・・・・・・・・ますます気に入らん!」
「ちょ、食べながら刀かたかたさせるの止めてくださいよ・・・!落ちついて!!」
「落ちついてなどいられるか!!貴様、その手を離せ!」
「病人に鞭を打たないでくださいってば!!」







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