「大佐が風邪?」
「はい・・・いつもあんなに元気いっぱいなのに・・・寝込んでるんですよ」
「あはは、勇兄さんをそんな風に言うの、ちゃんくらいだよねぇ」
「前に私が風邪引いた時にちゃんと別の部屋で寝なかったのもあって・・・」
「えー!なになにちゃんそこんとこ詳しく!!」

「勇も風邪?進もだって言ってたよ?仕事が丁度休みでまだ良かったって」
「ふーん、それ多分昨日2人でやってた乾布摩擦のせいじゃない?」
「えっ、雅くんそれ見たのいつ?」
「さぁ・・・確か朝の9時くらい?」
「本当?私5時にそれで1回起きたのに、ずっとやってたのかな?!うわぁそりゃ風邪ひくよね」




あれだけ部屋を別にしてくださいと言ったのに、いつもばたばたしてゆっくり出来なかったからと、 風邪を引いて珍しく大人しかった私をぬいぐるみみたいに扱った勇さんは、私の心配が的中して、見事に風邪を引いた。
しかも仕事がお休みの日に限って具合を悪くした事に非常に苛立っていた。
いや、でも今雅くんからの情報からすると、勇さん自身もそんな止めを刺す様な事をするから・・・とも思わなくもない。自業自得とはこのことである。
しかも確実に進さんは勇さんの巻き添えだろう。あの調子で押し切られて断れなかったのだろう、ただただ不憫で なんとなく申し訳ない気がしてくる。




「あー・・乾布摩擦か。そういえば私も朝見たな」
「でしょう?風邪菌が体内にあるのに、まったく無理するから・・・!」
「本当に馬鹿だね、勇は」
「進もかっわいそ〜!」
「うん、勇さんに付き合せて迷惑かけちゃったよね・・あとでお見舞い行こうかなぁ」




そう言うと、正さんと茂さんが、ぎょっとした顔でこちらを見たので、え?・・・え?と2人を交互に見比べる。
正さんなんか、頭痛がするなんて言いだして、頭を押さえる。もしかしたら風邪なのかも。
話してはくれなさそうだったので、茂さんに目を向ければ、焦った様に彼は口を開く。




「あー、あー進はね!俺達が見ておくから心配いらないよ、ちゃんは勇兄さんについててあげて〜」
「え、でも・・・大丈夫ですかね・・・?」
「進は・・・あー・・・その、寝ぼけが酷くてな。襲われるかもしれないし」
「襲う?!?あの進さんが???寝ぼけで?」
「男は狼なのよ〜あーっ、怖い!怖いねっ、正兄さん!」
「あ。ああ・・・!」
「へぇ、進ってそうだったんだ〜。怖っ、寝起きの進には気を付けよっと」
「・・・馬鹿ばっか」




はいはいはい、ちゃんは勇兄さん担当!なんて言って背中を押されて、食堂から放りだされる。
まったくもう、強引なのは兄弟皆に言えるな、なんて思いながら、その隣の厨房でしょうが湯を作り、 勇さんが寝込んでいる部屋までの廊下を歩く。
部屋の前まで行き、扉をコンコンとノックする。中から声はしない。その代わりに咳が聞こえて、私は 扉のノブを捻ってそぉっと様子を覗き込む。




「勇さん?」
「・・・・か」
「大丈夫ですか?外まで咳聞こえてましたよ?しょうが湯持って来ましたけど、入っていいですか?」
「入れ」
「はーい、失礼します」




中へ踏み入れれば、勇さんは咳をけほけほとしながら、起きあがろうとする。
それを慌てて止めてもう一度ベットへと身体を横たわらせる。 勇さんが調子を悪くするなんて、とっても珍しいみたいで、千富さんも心配していた。 確かに今までに病気にかかったりとかそういう事もなかったし、私自身勇さんがこんな状態なのを初めて 見た。
本人は大丈夫だと言い張るけれど、それを止めて先ほどベットで寝るようにと言ったのに、どうも落ちつかないようだ。
まぁじっとしているような性分ではないだろうし、それも仕方ないかな、なんて思いながら前は勇さんが私を看病して くれた時に使った椅子を引き寄せて座る。
その間に勇さんは、せっかく横たえた身体を起こしてしまっていた。なんとも、人の話を聞かない病人だ。




「この一番寒い時に乾布摩擦なんてやるから・・・、ただでさえ私の風邪が微妙にうつってたのに」
「ふん、大日本帝國の男子っ、たるものそのような、げほごほっけほっ・・・・」
「はいはい興奮しない、落ちついて。何言ってるか分かんないですよ・・・無理するから。はい、しょうが湯飲みます?」
「飲む。まったく、久々の休日だというのにとんだ災難だ」
「進さんも風邪ひいちゃったみたいですよ?勇さんがひっぱりまわすから、本当にもう、」
「なに?進がか。軟弱者だな・・・ふん」
「いや、勇さんもでしょーが。というか風邪引かせたの勇さんですからね?分かってます?」




突っ込みを入れるも、勇さんは手渡したしょうが湯に夢中で聞いている様子はない。
自分の事は棚に上げるこの性格は病気に掛かっても衰えるものではないようで、やれやれとため息をつく。
まぁここでそうだな、俺が悪かったのであろう、なんて言いだしても気持ち悪・・・いや、調子が狂うのだけれど。
気を取り直して、しょうが湯を飲み干す勇さんへと身を乗り出して口を開く。




「しょうが湯どうですか?」
「ああ、悪くはない」
「あれ、本当ですか?これ私が作ったんですよ」
「そうか、ふむ。なるほどな」
「勇さんが太鼓判押してくれたなら、進さんにも持っていこうかなー」
「ならぬ。・・・貴様は少し進に甘くはないか?」
「進さん?そうなんですかね・・・?別に普通だと思いますけど」




首を傾げると、勇さんは腹ただしげに眉間にしわを寄せながら湯呑をこちらへと押し付けてきた。
そうして布団の中にすっぽりと入ってしまう。咳は先ほどよりも多いみたいだが、なんだかとてもわざとらしい。
くるりと背を向けたその背中はもう寝る、と言っているようであったので私は、その背中に向かって 「じゃあまた安静にして、寝てくださいね」と声を掛ける。
すると、寝ようとしていたはずのその背中は向きを変え、その代わりになんとも不機嫌そうな勇さんの顔がこちらを向く。




「眠くもないのに布団の中に入るのはつまらん」
「今、寝ようとしてたじゃないですか」
「知らん!貴様の勘違いであろう」
「駄々こねないでくださいよ。病人は寝るのがお仕事ですからね」
「・・・・ふん、その様な事は子供のすることだ」
「自分がそうだっていう自覚あるんですか?それはそれは新たな発見かも」
「ここまで言っているのに、まだ従わぬと?っ、貴様、どこまでも阿呆ごほっごほっ」
「ああもう、はいはい、寝るまでここにいますから」
「・・・・・・・寝付いたらどこか行くのか」




阿呆はどっちだおい!と心の中で思いながらも、立ち去ろうと思った身体を勇さんが眠るベットに足を向ける。
しかしやけに絡みがねちっこいというか、面倒くさいというか、今日の勇さんは少し甘えてくる?というのだろうか。
これも病人だから?なんて思いながら掛け布団を肩まで引っ張ってあげて、もう一度椅子に座り直す。
こちらへと延ばす手と、表情がなんだか必死に見えて、私はその延ばされた手をきゅっと掴んで答える。





「どこにも行きませんよ。勇さんのところにいますから」
「ふ、無論だ」
「なんですかその自信は。あーはいはい早く寝てくださいねーはいはいおやすみですよー」
「なっ、貴様、重要な任務を前にその態度はっごほっけほっなんだ!帝國の恥であるっげほっ!」
「恥でもなんでもいいですから、早く良くなってくださいね」









存在を確かめさせて?
「進くーん?兄さんが見舞いにきたよー」
「進〜!だいじょーぶ??」
「げほっ、茂兄さんに、正兄さんに博?すみません、こんな状態でして・・・ごほごほっ」
「うんうん、勇兄さんに付き合って乾布摩擦だって?大変だったねぇ」
「あまり大佐の我儘にばかり付き合ってやるな。大佐は限度というものを知らんからな」
「ええ、ありがとうございます・・ところで博はなんでそんなに離れているんだい?」
「え?!なななななな、なんでもないよ?!別に進は狼って、思ってる訳じゃないよ!」
「・・・・・・・・え?」







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