お腹すいたーと思い、部屋を出てとりあえず何かをお腹にいれようと食堂へ向かう。
中に入れば誰もいなくて、ちょうど休憩時間かなにかの時に来てしまったみたいである。
なにか手軽に食べられるものはとキョロキョロして探していると、ちょうど食堂の扉が開く音がこちらまで聞こえてきた。
なんなんだ騒々しい、と思いながらも空腹が収まる訳でもないので、視線を動かすのは止めない。 そうしていると厨房の隅っこで、りんごが籠に盛られているのを発見した。
よし、これ皮剥いて食べよう!なんて思いながら手にする。するとちょうどタイミングよく、 食堂の方から厨房へ声が投げ掛けられる。
いや、実際投げ掛けるなんて可愛いもんじゃなく投げつける様だったけれども。 多分食堂に入っても誰もいないので、それに気が付いて、厨房の方にまできたのだと思うけれど、それにしてもお腹がすいたから って、かなり横暴な態度だ。
まぁなんなんだ一体とひょいと厨房から顔を出せば、予想通りというか…勇さんだった。
目が合うと何故?という表情がありありと出ていたので、私はその疑問に答えるべく、りんごを一回机に置いて勇さんへと 歩み寄る。
というかお腹すいていると、もれなく皆イライラするよねー。




「お腹がすいたので、なにかないなーって思いまして」
「何、誰もいないのか!俺も腹が減ってな」
「今、りんごを剥いて食べようかなって思ったんですけど、勇さんも食べます?」
「・・・貴様が・・・やるのか?その、・・・料理を」
「え?料理っていうか皮むくだけとも言うんですけど」
「よせ、今料理長を呼ばせる」
「大丈夫です。休憩中だと思いますし、自分でこれくらい出来ますよ」





そう答えれば勇さんは、目をしばし瞬かせて驚いたというより茫然としたようだった。
まぁ、多分勇さんからしてみれば身分の上のものが料理をするなんてことが信じられないし、許されない事なんだろうと思う。 でも博くんは料理してみたいし、作ってあげたい!なんて現代の主夫顔負け(実力はさておき)な発言をしていたのに。 同じ兄弟で、同じ環境で育っていると言うのにこの違いはなんだ・・・性格の差か・・・・。
私はナイフを握ってりんごをするすると向き始める。すると同時に勇さんの目が大きくなり見開かれる。そんなに意外だった かしら〜?なんてのんきに考えつつ、りんごを早く食べたいと言う気持ちが大きくなる。お腹すいた。
勇さんが待ったと手を伸ばしたけれどもう遅い、私はするすると皮を剥き続ける。





「刃物は貴様には危険だろうがっ・・・・・くっ、案外やるな・・・」
「そんな感心しないでくださいよ。誰でも出来ますって」
「いや、この前正達が料理をした時はすさまじかったようでな。千富に酷く叱られていたぞ」
「・・・・・なにを作ろうとしたんでしょう・・・恐ろしいですね。良かった、その場に居合わせないで」
「料理などやろうとするからだ。だが・・・ふむ、なかなかのものだな」
「材料あればもっと温かいものとかもできたんですけど、勝手に使うと料理長に怒られちゃいますしね」


気分が乗ってきたので、りんごをうさぎさんにして、お皿の上に置いて行く。
傍でじっと見られるのはすこし緊張もするけれど、嫌だとは思わない。むしろ微笑ましい気持ちにもなる。 お母さんが剥き終わるのを待てない子供みたいな。・・・・ん?
いやいや勇さんはもう子供じゃないしね、いやいやさすがにそれは失礼だろう。 目の前にお皿を置いて、私は勇さんの前に座る。フォークがあればと思ったけれど困った事にその場所を知らなかったので、 手づかみになるけれど、まぁいいや、なんて思いながらりんごをぱくぱくと食べていけば、勇さんも それにならって手を伸ばす。
あれ、行儀悪いとか言って怒るのかと思ったけど、そういう事は言わないみたいだ。
お腹すいてるとそう言う事どうでもよくなるよね。
向き合ってむしゃむしゃと無心になってりんごを食していれば、博くんが食堂にやってきて駆け寄ってきた。
今日も元気だなぁ、なんてどうぞ、とりんごを渡せば、ぱぁっと表情が明るくなってりんごを取る。




「俺もお腹すいちゃってさ〜料理長は・・・あれ?いない?」
「今休憩中みたいなんだよねー」
「じゃあこれもしかして、が剥いたの?!すごい!!この前俺やろうと思ったけど駄目だったよ・・」
「慣れれば簡単にできるよー。博くんも上手にできるようになると思う」
「本当!?じゃあが先生で教えてくれる〜?」
「私でよければいいよ」
「おい、」
「でへへ、じゃあ明日料理長に頼んでりんごいっぱい買っておいてもらおうーっと」
「おい、貴様ら!」
「なんですか、勇さん。急に大きい声出して」
「・・・・・・・・・これくらい俺にだってできる」
「えっ、ちょ」




止める間もなく、かちゃりと引き抜かれた刀が煌めくのが見えて、私と博くんは茫然とするしかなかった。
いや、それしか出来まい、止めるということは、自分がこの、今転がっているりんごの様になってしまう事を意味するのだから。 そう・・・めった刺しのりんごが今、私たちの目の前にあった。・・・勇さん風皮むき?と前向きにとらえてはみるものの、 空しい笑いとどこか遠くを見るような目線は戻せそうにない。
隣で固まっている博くんも同じように、口から乾いた笑いが出ている所を見れば、きっと私と同じ気持ちなのだろうな、なんて 考えてしまう。いや絶対そうだ。



「あーあー」
「あー・・・・・・」
「ふん、博も男ならば、ちまちまとそのような事をやろうなどと考えるなっ!分かったな!!」
「勇ってほんとおーぼー・・・・」









もどかしさを紛らわせて







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