「いたんですよ!!!廊下に立ってたんですってばー!」 「は、なんだ?。幽霊でいちいち驚くとはな」 「うっ・・・信じてないですねー!ほんとですって!!真っ黒な髪で、真っ黒な着物・・・まぎれもなくユーレイ」 「何もしてこないのだから、放っておけばよかろう」 「存在が!!怖いんですよ・・・勇さんは別になんとも思わないんでしょうけど」 「部屋に入ろうとしてきたら斬るが」 「本当ですか!・・・・・・ん?でも幽霊って斬れるんでしょうか?」 「一時的に消えはする。が、・・・移動しただけとも言えるがな」 「それ全然ダメじゃないですかー!怖い・・・!今度会っちゃったら命はない感じでしたもん」 部屋で勇さんにすがりついてみるけれど、何の事はないと、素知らぬ顔を貫く。 いやいやでもでもと駄々をこねると、ようやくこの部屋に来た時に斬ると言ってくれた。 でも幽霊って斬っても意味ない様な、と頭をよぎったけれど、とりあえず私の前に現れなければそれで良い。 この宮ノ杜の御屋敷ってでっかいし、なんだか歴史があると言えば聞こえがいいけれどいわくつきな感じも すごくするので、そういう・・・・まぁ、実体がない人もたまにいたりするわけだ。 しかも良くあることみたいで、勇さんは興味なしと言わんばかりにそっぽを向く。うわぁあ、勇さん見える人なんだ・・・と いう視線をよこせば、なんだ?と見つめ返されたが、いかんせん今はそんな甘いムード作られてもどうする事も出来ない。 しかも私、幽霊怖いけど、今まで見えた事なんかなかったんだよね・・・。なんで今回に限って見えちゃったんだろう。 * 私がその幽霊にあってしまったのは、夜中にお手洗いに起きた時の事だ。 まぁありきたりな場面と言ってしまえばそれまでだけれど、遭ってしまったのだ。うん、本当に遭いたくなかった。 暗い所はまだ許せても、よくわからない実態を持たない・・・・・・ゆ、幽霊というものは本当に苦手なのだ。 私と幽霊の遭遇は、お手洗いを済ませて部屋に帰ろうとした時に、いつもは人気のない、その廊下の突き当たりのところにぼやっと 人影が見えた、というものだ。 いつもは兄弟たちの部屋が一か所に配置されているこの場所は使用人の人たちや、お客さんでばたばたとしているけれど、 いつもその奥の部屋だけがしんと静まり返っていた。 それを思い出して、ふとその場所を振りかえってしまったのがいけなかった。 そこにいたのは長い髪、着物を来た誰かの姿が・・・・・・・・・・・・そして目が合った、 「ひぃいいいいい!!!」 そんな情けない悲鳴を上げて、気が付けば朝。チュンチュンと可愛らしく雀が鳴く声がする。 がばりと、布団を引っ掴んで起き上がれば、そこで自室という事に気が付く。 ひぃいい、ともう一度叫んで、あれはなんだったんだ?と思う。すると首に後ろから伸びてきた手を掛けられて、もう一度ベットへと引き戻される。 ぼすんと枕に頭を戻せば、絡みついてくる手はなかなか外れない。 そうかー、今日は勇さんがいるのだった。確かお休みだと言っていたもんなぁ、なんてゆるゆると考えて思考を 奪われそうになる。二度寝・・・・・と瞼が落ちてくる、がその瞼の裏に、先程見た(とはいってもあの時は夜中で、今は 朝なのだけれど)幽霊の姿がちらついてくる。 ひぃ、やはり二度寝などしている暇ない!と言ってもう一度目を開き、勇さんの胸板をばしばしと叩く。 鍛えられているのか、私のやわな拳などではびくともしないのだけれど違和感を感じてちょっとめんどくさそうな表情になった。 しかし絡んだ手は離れず私の腰に伸び、ぐいと引き寄せられて、私の顔は勇さんの胸に押し付けられる形になる。 「勇さん!勇さんてば!!起きてください!」 「・・・・・・なんだ・・・・・、五月蠅い」 「ぎゃっ!死ぬ!押しつぶされる!!ちょっと握力考えて頭抱えてくれません!?骨ぎしぎし言ってる!」 「・・・・・・・・」 「ひぃぃい、やばい、本当に危険!はるさーん!たえさーん!」 「・・・・黙れ、」 「うう、勇さんにつぶされて死ぬとは、短い命であった・・・・あ、」 「・・・・・・・・違反するものには、断固として罰を与えねばならん!それが強き帝國の、」 薄れゆく視界に入ってきたのは、ベットサイドに置いた一冊の本。そういえば夜寝る前に読んだんだっけか、と おぼろげに思い出す。 それをどうにかこうにか、勇さんの腕から抜けだした左手で掴む。そして、振り被り、勇さんの頭に落とした。 かっつーーーん!と良い音がした。これは不可抗力である。 仕方がない、命の危機だったのだ。勇さんの寝ぼけが私の命を左右するとは・・・本当に危険な人だ。 そして冒頭へと戻る。 散々幽霊について語ったけれど、そもそも勇さんは話を聞く気がまったくなさそうだ。 そうかそうかなるほど、ふむ、と最後なんてまったく聞いてない相槌をくれた。うわーどうもありがとうございますーなんて こちらも棒読みで応戦してしまうほどには聞いていない様子の勇さんをじとっと見つめる。 それを何と勘違いしたのか分からないけれど、私の頭に勇さんの手が降りてきて、よしよしと撫ぜるというよりは、わ っちゃーとかき乱すかのように頭を撫でまわす。 「ぎゃああ、髪がこんがらがる!たえさんに怒られちゃいます」 「うむ」 「うむ、・・・じゃあないですよ!寝ないでください!聞いてください!本当にいたんですよユーレイ!」 「気のせいであろう。俺はもうひと眠りする事にする。貴様も早くしろ」 「だからっ!嘘じゃないんです!お手洗い行った帰りに見たんですもん!」 「だが、実際見てからここに帰ってきた記憶がないのだろうが。夢でも見て寝ぼけていたに違いあるまい」 「それが不思議な所なんですよねー。私気絶したはずなのに、なんでベットに・・・?」 「早くしろ、。あまり俺を待たせるでないわ!」 「ひゃっ!ちょ、急に引っ張らないで」 またしても私はベットに逆戻りで、勇さんの抱き枕状態になってしまった。背後からお腹に手を回され、 勇さんはすや、と寝息を立て始める。 かたや私はその状態で腕を組み、推理を始めた。いや、でも考える事なんてほとんどないんだけどね。材料が とにかく少なすぎる。また今夜もう一度お手洗いに行ってみよう。そこで分かるかもしれない。 ・・・・・いやでもこわいな。誰かについてきてもらった方がいいかな。 そんな事を考えていたら、はるさんがお部屋の掃除に来てくれて、ようやく勇さんから解放されることとなった。 はるさんは勇さんに怒られていたけれど、怒るのは筋違いだ。確かに勇さんがこんな時間までベットの中とは 珍しい事だけれど、そこまで怒る事じゃないだろう。 はるさんを庇って前へ飛び出れば、勇さんは眉を吊り上げた。 振り返ればはるさんは少し苦笑していて、あれ?なにこの空気?私だけが乗り遅れているような空気になって、 いたたまれなくなったのは、言うまでもない。 真実を見定めて? (back) |