「だって、勇さん、くだらんって言って付いてきてくれないんですもん・・・・そっから上は皆そう」 「正兄さんは仕事が立て込んでいるみたいですからね・・・夕飯もちゃんと取っているのか」 「心配ですね、あとで差し入れしときます」 「そうですね、そうしましょう。きっと喜びますよー」 「ちょっと君たち、なにそこで和んでるの。今は正兄さんの事は忘れて!」 「茂さん、なんで怒ってるんですか」 「だって霊だよ!おばけ!!想像しただけで恐ろしい・・・っ」 「茂兄さん、苦手でしたっけ?」 「進くんは見える人、だったよねぇ・・・。ちゃんこっちおいで、」 「いっ!!ほ、本当ですか・・・進さん、見えちゃうんですか」 隣に立っている進さんが、遠慮がちに頷くのを見て、私は顔が引き攣る。 いや、進さんは悪くないのだ、だって、見えるのは仕方がないし、うんうん、仕方ない、し、なんて言い訳しながらも、 茂さんの後ろへと移動する。 どうしてそう言いながら離れるんですか!と言われたけれど、それも仕方がないことだといえる。ごめん進さん。 きゅっと茂さんの着物の裾を無意識に掴んでいた事に気がつく。 ・・・・・いや、だって怖いし。普通に深夜、真っ暗な屋敷の中の、長い髪の幽霊とかどう考えても怖いじゃないか!! 「という訳で、協力してくれる人を探しています」 「そこで最初に正兄さんに聞きにいくところが、ちゃんの凄いところだよね、いや普通聞かないわー」 「博くん辺りがいいかなって思ったんですけど、でも年下に格好悪い所見せるのもあれかなって思って」 「そここだわる所!?」 「自分はさんに頼られると嬉しいですよ」 「あ、ありがとうございます!進さん、さすが、頼りになりますね」 「そこー、すぐ脱線しない!」 「茂さんの事も頼りにしてますよ?」 「拗ねてる訳じゃないから!っていうか、幽霊苦手だからやめてよ!」 苦手なんだ・・・・いい年して、ぎゃーぎゃー騒ぐ茂さんを見ていたら、何故か心が穏やかになってきた。 自分より焦っている人見ると途端に心が落ち着く事あるよね・・・・。 なんかちょっとだけ冷静な気持ちで、幽霊に向き合えそうな気がしてきた。 「んで?深夜にお手洗い行った帰りにあったって?」 「そうなんです。でも気がついたらベッドで寝てて・・・」 「・・・・それ寝ぼけてたんじゃないの?」 「違いますよ!だって、はっきり記憶ありますもん」 「つまり幽霊に遭うまでは、記憶があるんですね」 「そうです!」 拳を握ってそう言えば、2人は顔を見合わせた。 とにかく実際にその現場に行ってみれば、分かるだろうと言う事で、私たちはあの夜と同じように、 お手洗いを出てすぐ右の廊下へ行ってみた。 「・・・・・・とくに変わった所はありませんけど・・・・ここですよね?」 「あの時はとにかく真っ暗で、怖くて、視線を感じて振り向いてみればそこにぬっと人影が・・・!」 「あそこの突き当たり?」 「はい」 こくりと頷いてみれば、茂さんはそっちの方へと歩いて行く。 今は明るい昼間なせいか、全然あの時の様な陰鬱な空気はまったくなく、いつもの廊下だ。 くるり、とまわって見せて、窓を背にして茂さんは笑って見せる。手を広げて余裕の笑顔だ。幽霊が怖い、苦手だと そうは言っていたけれど、彼だって大人だ。真昼間からそんなビクビクとする様子はない。 いや、当たり前だけれど。 そう、思った瞬間だった。ぬっとその右側から黒い人影が出てきた。 髪は乱れ、色は白い。いきなり現れたので、一瞬何か影がよぎったのかと思ったけれど、そうではない。 黒い着物を纏った人物は茂さんの背後に迫っていた。 「ひぃいいい、茂さん!!!う、後ろっ!!!」 「ちょ、さん?落ちついてください!大丈夫ですから」 「だっ、だって、だっ、進さん!!真昼間から幽霊がっ!幽霊が茂さんにとりついた!!!」 「ちょっと縁起でもないこと言わないでくれる!?進くんが美味しい事になってるよ!」 「茂兄さん!笑ってないでちょ、さんどうにかしてくださいよ〜!」 「ひぃいいいい!!本物!やっぱりいたんだ・・・!!」 「貴様ら・・・人の部屋の前でごちゃごちゃと・・五月蠅いぞ!!!」 「喋ってる!!ユーレイの声聞こえちゃった!!!ひぃいい」 「ああ。御杜さん、締め切りですか?騒がしくしてしまってすみません」 「ユーレイってやっぱり勘違いじゃなかったんだ・・・っ、・・え、御杜さん?え・・・実在?」 「先程から黙っていればぐちゃぐちゃと!お前は徘徊癖でもあるのか?この前はいきなり廊下で寝出しただろう」 「え・・・・・・・。え・・・・・・・?」 やれやれという表情の茂さんと私に片腕をがっちりとしがみ付かれて困った表情を浮かべる進さんを交互に見比べる。 その間に割り込んできたのは、長髪の黒い着物を着た男の人だった。 さっきの発言といい、まさかの幽霊ご本人様の登場である。 しかもなんか私の事を知っていらっしゃる方のようだ。でも前にここで倒れたのは、寝たとかそういう事じゃなく、 幽霊がいると思ってびびって気絶したからなんだけどな。 そんな事を思っているとも知らず、彼はこちらに向かってそう話した後、頭を押さえて首を左右に振る。 「はぁ・・・・・いかん、急に立ったせいでめまいが・・・。付き合っていられないな」 「だ、大丈夫ですか?すみません、うるさかったですよね、あの・・・えーと・・幽霊さん」 「幽霊だと?俺は幽霊ではない!現にこの前急に廊下で寝てしまったお前を抱えて部屋まで連れて行っただろうが」 「は・・・い?えっと・・・?」 「ちゃん、ちゃん、もしかしてちゃんが言ってた幽霊ってこの人の事?」 「はい」 茂さんは手招きして私にこっそりと耳打ちしてくる。それに大真面目に頷けば、ぶっは!と噴き出した。 汚い。汚いぞ、茂さん。 隣で進さんまで苦笑いを浮かべている。 今私が言った事はなにかそんなにおかしい事だったんだろうか。 まぁ・・・幽霊ではなかったと言う事はさすがにもう分かったけれど。 「守くんは、書生なんだよね〜。ほとんど部屋に籠って締め切りに追われてるから、ちゃんとは会った事なかったよね、そういえば」 「茂兄さん、そういえばって・・・・」 「ちょっと離れて暮らしてたんだけど、最近こっちで住む事になってね。本来なら宮ノ杜家四男なわけ」 「えっ、さ、さらにご兄弟が・・・!ええ、と、あのこちらでお世話になっております、です」 「貴様・・・次男と関わりのあるものだったな?」 「そうですねー。拾っていただいたのでペットみたいなもんですかね」 「ぺっと?」 「あっ、えーと・・・お供みたいなもんです!」 「さん・・・それ勇兄さんには言わない方がいいと思います」 「多分勇兄さんは泣いちゃうんじゃないかなぁ」 「なに?では貴様は次男の弱点ということか!ふ、良い事を聞いた」 勇さんとは仲があまり宜しくはない、と言う事だったけれど。 守さんのいきいきとした表情はなんだか晴れ晴れとしているので、喧嘩友達という感じなのかな? 勇さんって突撃激情型だから大変ですよね、というと途端に守さんは疲れた様な口調で、お前はまだ常識が 通じる様だな・・・と肩を軽く叩かれる。 常識だ・・・!常識人がここにいる・・・!進さん以外で初めて見たかもしれない。 「でも、守さん、私の事知って・・・?お会いした事はなかったですよね?」 「見送りの時にたびたび窓から見かけていたからな。姿は知っていた」 「そうだったんですね〜」 「へぇ〜へぇえええ〜そっか〜守くんそうなんだ〜ふふふ」 「なんだ、その表情は!三男、にやにや笑いを止めろ!!」 「み、御杜さん・・・っ!落ちついてくださいよ・・・っ」 訂正。常識人は常識人だけれど、ちょっと・・・いや結構勇さんよりじゃないか?この人・・・。 そんな事が頭をよぎったけれど・・・まぁ・・なにはともあれ、幽霊ではないという真実にたどり着いたから、 とりあえずこの事件は解決と言う事にしておこう。うんうん。 1人で事件解決の喜びに浸り、幽霊なんていなかったんだと少し気持ちが浮上した。 「ちょ、振り回したりしないで、ここ室内だから!!進くん、止めて〜!!」 「茂兄さんがからかったりするからですよ!!ちょ、御杜さん・・・っ!」 「!!!只今帰還したぞ!この様な所で一体何をして・・・・・」 「・・・・・・い、勇さん、おかえりなさい〜あはは〜」 「御杜ぃいいいいい!!!!」 辿りついて見せて? (back) |