「んー・・・・・眠い・・・ぐぅ」
さま!?」
「あ、はるさ・・・ごめんなさ・・・ねむくって」



朝になれば、しゃきっと起きる勇さんと共にふらふらと起き出していつもの御見送りをした。
それから数時間経ってお昼の時間になったので食堂へと昼食を取りに向かう。
ただ今日はなんとなく目覚めが悪くて、朝からずっと眠たいのを引きずっている気がする。 事実眠い・・・・・・・焼き魚のお皿に危うく顔面をつっこませるところだった。



「あらまぁ、まだしゃきっとしておられないのですか? さま」
「うー・・・今日なんか目覚めが良くなくってですね・・・」
「珍しいね。いつもぐだぐだ言いつつもご飯食べれば元気いっぱいなのに」
「あれ?茂さんこそ珍しくないですか、こんな時間に食堂にいるなんて」
「なんか目覚めちゃったんだよねー」
「茂さんに目覚めの良さ取られちゃったのかな・・・ふゎぁあ」
「今日はお天気が良いですからね、眠くなってしまうのも仕方がないですよね」





そうフォローをはるさんから頂いたものの、眠いからといって使用人の皆さんがベットメイキングした 後のベットにまた潜り込んで惰眠をむさぼるというのも、それはちょっとなぁなんて思って、 ほわほわとした心持で箸を動かす。





「あ、茂兄さんに、 さん、おはようございます・・・」
「えっ、進さん!?今日はお仕事じゃないんですか?」
「今日は非番でして・・・昨日は勇兄さんに飲まされてから記憶がなくって・・・うう」
「進さま、お水です。まったくあんなに呑まれて・・・二日酔いも当然ですよ」
「はい・・・・」
「ああ・・・・勇さん・・・す、すいません。進さん疲れてらっしゃるのに、付き合せる形になってしまって」
「あはは、まぁ、勇兄さんのあれはいつもの事なので、 さんが気になさる事ではないですよ」
「確かに昨日の進クンすごかったもんね〜。ちゃんにも見せてあげたかったよ」
「や、やめてくださいよ、茂兄さん!」





爽やかに笑って、席につく進さんを見ながら、私は箸をすすめる。
あれだ、昨日は夜遅くまで酒盛りしてたもんなぁ、本当に人を巻き込んでの酒乱は勘弁してほしいものである。
まぁ、当の本人はけろっとした顔でお仕事に向かわれたけれども。うーん 強い人はやっぱり違うなぁ。


ちょこちょこと食べ進めて、最後まで食べ終えてごちそうさまでした、と呟けば、千富さんが柔らかな笑顔でこちら を見ていた。ん?と首を傾げてみれば食堂にいる全員がこちらを見ていた。
こころなしかほのぼのとした空気が流れている。 いつもの大人組と子供組がいない空間はなるほど、穏やかである。















別段することもなく、かといって雑用を申し出るとはるさんとたえさんのコンビにけちょんけちょんに やられる事は想像できるので、大人しくしてようとテラスに椅子を出してそこで本を読む事にする。
簡素な椅子を引き摺りだそうとしたら、男の使用人の人が来て、簡素な椅子ではなく慌てて大きな椅子を出してくれた。
っていうかただの椅子じゃなくて長椅子みたいなやつ。

自分でやろうとしたけれど、そんなに頼りなく見えたのだろうか。
それにしても男の使用人の人ってこの屋敷の中で、あんまり会わないなぁ、担当があるのだろうし、私に ついてくれているのは、はるさんなので無理もないかもしれないけど。
うーん、まぁやってくれるというのだから文句は言わないし、いやむしろ有難いくらいなのですけど。
お茶も持ってきます!と言ってくれるのでお願いした。和菓子がいいなぁ。 このまったり具合にぴったりである。





深くふわふわな椅子に腰かけて、この前守さんから貸してもらった新作だと言っていた本を開く。
よくよく思えば、凄いよね、作者本人から新作貸してもらえるこの状況って。


ぺらり、と乾いた音を立ててページをめくっていけば、騒がしい声が聞こえてきた。ん?と耳を傾ければ、 さっきの男の使用人とたえさんの声がした。





「秀男!!ちょっと勝手なことしたらダメよ! さまに話しかけたでしょ」
「話しかけたっていうか、これ今まさに持っていくところなんですけど・・・お茶とお菓子」
「あの方にははるがついてるんだから、はるに頼みなさいよ!」
「だって、あの人テラスに椅子出そうとしてたんだけど、ふわふわしてて危なかったからつい手を出し、」
「ぎゃーーー! さまがそんな事を!?あーもう!はるはなにしてんのよ!」
「ですよね?だから俺がしたことは悪くな、」
「あの方の周りは、男性禁止令なの!というか暗黙の了解なの!勇さまに殺されるわよ!!」
「ころっ・・・・え?なに、そんな危険な事を俺はしてしまったんですか?」
「あんた入ったばっかりだから知らないかもしれないけど、 さまは、勇さまの奥様になられる方なんだからね!」
「えっ、あんなちっさい子が!?信じられねぇ・・・・」



聞こえてますよ。もろばっちり。小さいですよ、どうせ。みんなそうやって思っているんでしょう。 少し拗ねてしまいたくもなる。
勇さんの影響力というのはとてつもないものだなぁ、と思って笑ってしまう。
きっと周りの人たちにとっては大真面目な事なんだと思うけれど、どうにも実感が沸かなかったりするし。



「ええっと、あの2人とも?」
「はっ、はい!あ、すみま、あっ、話しちゃいけないんでしたっけ?!」
「ちょっと落ちつきなさいよ。すみません、さま」
「いいえー、たえさん、と・・・えっと?」
「あ、新しく入りました、小野田秀男と申します」
「小野田さん!よろしくおねがいしますー」
「ほら、早くしなさいよ、秀男」
「あっ、はい。遅くなりましたが、お茶とお菓子です」
「わぁ、和菓子、これ鶴屋のやつですね」
さまがお好きだということで、千富さんが」
「本当ですか!あとでお礼言いにいかなきゃいけないですね」



そう笑顔で返せば小野田さんは少し変な顔をしたあとにたえさんと「では私はこれで」と下がって行ってしまった。
これからお世話になる方だし、仲良く出来たらいいなぁ、なんて思いながら、 たえさんと少し話をしながら遠ざかる小野田さんを見送る。

そうしてまた1人になった私は和菓子を口に放りこみながら、本のページをめくる。
風が心地よく吹き、私の髪をゆらゆらと揺らす。気持ちのよい午後だ。
ぺらり、とページがめくれる音が耳に入りながらも、だんだんその音が遠くなっていくのを感じた。















「あ、気が付きましたか?もう夕方ですよ」
「ん・・・・・・・」
「ちょっとテラスを覗いてみたらさんがいたので」
「・・・・・・・・っは!えっ!あ、進さ、えっ」
「あはは、混乱させてしまいましたか。とても気持ち良く眠っていたので起こすのも忍びなく・・・」



再び閉じた瞼を開けた時、周りは橙に染まっていた。
そして目を開けた先には、先ほどまで私が読んでいた本をめくる進さんの姿があった。
どうやら本を読んでいた間にいつのまにか眠っていたみたいだ。まだ寝ぼけているのか、曖昧な返事しか 出来なかったけれど進さんという存在を確認した瞬間一気にぶわっと目が覚めた。



「これ、自分にも貸してくれる様に頼めないですかねぇ・・・」
「え?進さんって守さんの本好きなんですか?快く貸してくれると思いますけど」
「どうでしょうね?自分以外は御杜さんの本、好ましく思ってないっていうのがあってお前らには見せん!と言われてしまったんですよ」
「じゃあ私が読み終わった後、進さんに貸してもいいか聞いてみます!絶対喜びますよ、守さん」
「そうだといいんですけどね」



私が身を起こしたのを見ると進さんは名残惜しそうに、しおりを元に戻して私へ本を差し出した。
それを受け取りながら私が守さんへの交渉を提案してみれば、目を瞬かせたものの苦笑して首を傾げる。 そのあと苦笑ではなく小さく口元に手をやってふ、と笑ったかと思うとこちらへ手を伸ばす。
なんだろうと思うと、私の頭の後ろへと手がやられて、優しく撫でられる。



「髪、跳ねてますよ、さん」
「えっ、変な体勢で寝たからでしょうか!すみません」
「ははは、・・うん、これで大丈夫だ」
「えっと・・・・ありがとうございます」



優しく髪を撫でつける様は、そうやっぱりお兄ちゃんだ。
博くんに対してもタイを直してあげたりと、なんだかんだで世話を焼いているのは進さんだと思う。
気恥ずかしくなって、照れたように笑えば、進さんははっ!と気が付いた顔で慌てだした。



「あっ、か、勝手に髪を触ってしまってすみません!」
「ん?え、ああ、大丈夫ですよー、ありがとうございます」
「いや、自分はどうもそういう行為してしまっても気が付かなくて・・・!」
「進さんは紳士的で素敵だと思いますよ、とても!」
「え・・・あ・・・いやぁ、照れますね」
「本当ですよ!もっと自信を持ってもいいと思います!!」
さん、ありがとうございます」



そろそろ夕食ですね、皆さん帰ってきているのではないでしょうか?なんて優しい声で 言われた私は、進さんの後を追うべく、椅子から立ち上がる。 そうして進さんの横に立って歩けば、不思議そうな顔をした進さんが、さん?と声を掛けるものだから、私も負けじと進さん?と名前を呼び返すのだ。
そんな、穏やかな時間がとてつもなくたまらないなぁ、と感じながら。










日溜まりに溶けさせて

「なぁ、本当にさっきの”さま”が勇さまの奥方になるのか?」
「だーかーらーそうだって言ってるじゃない。軽率な行動は控えた方がいいわよ」
「本当か?勇さまって・・・次男だよな・・あの・・・・上から2番目のご兄弟だよな・・・?」
「しつこいわね!!!そうだって言ってるじゃない!!」
「や・・・だって・・・・信じられないっていうか・・・・・正反対だろ・・・・」
「アンタもはると同じ反応するのね、まぁ、私も最初信じられなかったけど」
「だろ?!あれは信じられないって、だって勇さまは・・・」

「俺がどうかしたのか?」
「やー勇さまみたいに・・・・え、」

「「・・・・・・・・・」」
「おほほ、お帰りなさいませ勇さま!さまは2階のテラスでお待ちですわ!!おほほほ」
「・・・・・ふん、そうか。あやつが出迎えないのは珍しいな。行ってみるとするか」
「「・・・・・・・・はい!」」

「危ねぇ・・・・・・・・・殺される所だった・・・・」
「誰のせいだと思ってんのよ!軽率な行動は控えろって言ったでしょ!」





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