「おっ さまじゃねェですか?」 「・・・・ん?」 先ほど庭園で頂いたお花を腕いっぱいに貰ってしまって、嬉しくって気持ち良く 廊下を歩いていた。 最近お花を頂く事がよくあるのだけれど、それはなんでだろうか? いやもちろんお花は好きだし、見てるだけで心癒されるのは確かな事実なのだけれど。 すぅと息を吸い込めば、かぐわしい花の匂いがいっぱいに広がるのに気を良くした時だ。 唐突に声が投げかけられて、振り返れば知らない人。 というか私が抱きかかえているお花のせいで顔は良く見えない。 一体誰だろうか?そして私を知っていると言う事は関係者だよ・・ね? うん?と疑問でごっちゃになる私の脳は一応フル回転している。 ここに来てからと言うもの、ちょこちょこと交友関係が更新されていくので、良く分からなくなる事があるのだ。 うーん、でもこの人の事は私は知らないなぁ。 向こうは知ってるっぽい。でも声からしても私、初対面な気がする。あくまで気がする、 という曖昧な感じだけれど。 「お初にお目にかかります、 さま!」 「あっ、やっぱり初対面ですよね!一瞬どきっとしてしまいましたよ〜」 「こりゃ失礼!俺は情報屋をやってます、有田喜助ってもんで」 「情報屋・・・?へぇえ、なんだかすごいですねぇ」 「いやいや、 さまに比べたらすごいなんてもんじゃないですよ」 にこにこ、と明るい表情でそう告げる有田さんに、私がすごいって なんなのだろうか、それはどこ情報なのか、情報屋である彼独自のルートから仕入れた私の情報なのだろうか、と 考え込んでしまった。 てかすごいってどうせ碌でもない情報が流れているに違いない。主に勇さん関係で。 「勇さまとはどうですかい?仲良くやられているようですが」 「ええ、お世話になりっぱなし、と言いたい感じですけど、まぁ向こうも掛けっぱなしなのでおあいこって感じです」 「そりゃ仲睦まじいこって!羨ましいですな〜!」 「いやいや、抱き潰されたりするとかなり生命の危険を感じますよ」 その言葉に有田さんは一瞬詰まったけれど、その後に笑いだす。 や、多分有田さんが考えている様なそんな緩やかな行為じゃなくて、本当に命掛かってた感じで、その後に 千富さんが現れなければ、私肋骨複雑骨折だったよ、あれ。 さっきと会話が逆転しているような気がするけれど、それにしても、にこにこと笑う有田さんはとっても爽やかな人だ。 ご兄弟たちとは違うこう気安さとは違うが、安心するような雰囲気を持っている気がする。 情報屋さんだからなのかなぁ、会話を続けたいと思えるものを持っている気がする。うん、天職っぽい。 「あの・・・さま?」 「はい?」 「大丈夫ですかい?少しぼーっとしてましたぜ?」 「わ!ごめんなさい、有田さんは安心するなーって思って気を抜いてました」 「・・・・・・・!」 「有田さん?」 「・・・ご、ご兄弟は少し癖がありますからね、俺はしがない情報屋ですし」 「そんなことないです、・・・・・お仕事も頑張っていらっしゃるみたいですし!」 「へ?」 「シャツのボタン、取れかけてますよ」 有田さんが目の前で手をぶんぶんと振って否定した時にシャツの袖口のボタンが取れかかっているのが見えた。 片手でお花を抱えてツンツンと自分の袖口を差して口に出して見れば、有田さんはははは〜と笑って頭をかいた。 忙しそうだもんなぁ。聞けばいつも自分の身の回りの事は放って仕事に没頭しているため、千富さんに会うと、 たしなめられるそうだ。 「もうちょっとちゃんとしなさい」とこんこんと説教されるんだけれど、どうにもねぇ、と 苦笑が続く。 私もたまに千富さんには注意されてしまうので、まぁ、その苦笑を受け止める事しかできず、私も同類ですなんて相槌を 打つしかなかった。 怒られる前に、ボタンを付けてしまえばそれで万事解決なんだけども。まで、考えて、あー・・・ボタン付けくらいなら私にも出来たはずだったな と考える。 いつだったか習った事があったような、なかったような・・・・?うん・・・? ・・・・・・・・・・・・・まぁちょっと記憶はあいまいな感じだが、 出来るはずだ、いや出来る。 「よろしければ、ボタンつけましょうか?」 「えっ、あ、いやいや!そんなさまにそんなことはさせられませんって!」 「む、なんですかその否定は!できますよ!ボタン付けくらいは!」 「いやいや、そういうことじゃないですって!」 「大丈夫です!私を信じてください!!裁縫セットもらわなくちゃいけないですね、はるさーん!はるさーーーん!」 有無を言わせない感じで、ここで待っていてください、と有田さんを引きとめておく。 はるさんを呼んで、屋敷の廊下を少し歩けば丁度応接間から掃除を終えたのか、箒をもったはるさんがタイミングよく 現れた。 お呼びですか?といつもの柔らかい笑顔で対応してくれるので、私は急遽裁縫セットがいるんだけど、あるかな!?と 勢いよく話す。 私の勢いが激しかったせいか、一瞬はるさんはびっくりしたような表情をしたものの、 はい!裁縫セットですね!と快く返事をして スカートのポケットに手を入れて、ちょこんとした可愛らしい裁縫セットを貸してくれた。 おおおお・・・これが女子力・・・・! 変な感動を胸にお礼を言いつつその場を後にして、有田さんの待つ廊下まで歩く。走りたい気持ちはやまやまなのだけれど、 この前千富さんにこっぴどく怒られたため、我慢して早足である。 「有田さーん!貸してもらいましたー!」 「本当に申し訳ねぇ、さまにこんなことさせちまうなんて、」 「謝らないでください!千富さんに怒られる前に、ね!」 「千富さんに怒られるどころじゃすまねぇ事になっちまいそうだな、こりゃ」 「大丈夫、シャツに穴あけたりしないですから〜あ、花持っててもらえます?」 「はい、えーとじゃあお願いします・・・・」 * 「できたー!ふふ、有田さんお待たせです!」 「おおー」 「いい感じですよね」 「ありがとうございます、これで千富さんの説教からも逃れられるってもんですな」 「お役に立てて光栄です」 がっつりと胸を張って偉そうにしてみれば、有田さんは可笑しそうにちょっと笑った。 そうしてから、片手に抱えていた花束を私の腕へ戻す。 ふわっと香りが広がる。やっぱり何度でもよい香りだなぁ、と思う。 有田さんはそんな私を見て「やっぱり女子には花がお似合いです」みたいな事を喋ってそうしてその場を後に したのだった。 なんなんだろうかこの自然に口説いて行く感じは。さすがとしか言いようがない。 なんとなく、すごい人だなぁ、なんてほのぼのとしてしまって、私は 最後に玄関を出て外へ行く有田さんを目で追った後、二階の窓から有田さん!お気を付けて!と手を振って見送れば、 その声で気が付いたのか、帽子を取ってひらひら〜としてくれたので、やっぱりほっこりしたのだった。 手を振り続けて見送っていれば、最後の最後で有田さんが若干ぎくしゃくとした動作で帽子を戻したのが気になったけど、いい人とお知り合いになれたものだ。 花の香りに酔いしれて? 「」 「あれっ、勇さん、おかえりなさい〜」 「喜助か、来ていたのだな」 「はい!御挨拶できましたし、良かったです」 「・・・・・・・・・」 「勇さん?どうかしたんですか?」 「あまり他人に構うな、」 「は?え?あー・・・はい?」 「〜〜〜、っ!ならん!」 「ぎゃっ、ちょ、どうしたんです!?くる・・苦しい!!勇さんっ!死ぬ・・・ッ!!」 「す、すまん・・・・」 「ちょっと力込めたら私本当に死にますからね!!勇さんの圧力で!!!」 「なにあれ・・・・・・・・馬鹿じゃないの?」 「あー勇とじゃん!たーだーいーまーー!」 「なっ、貴様らは寄るな!さっさとどこかへ行け!!」 「おかえり、博くん、雅くん」 (back) |