「好き嫌い?雅くん」
「なっ、なんなの、急に横から入ってこないでよ」
「にんじん、ねぎ、さかな・・・・」
「仕方ないでしょ、好きじゃないんだから!」
「あーらーらー」
「な、なにさ・・・」




かわいいところもあるんだなぁ、なんて年相応な面を見てしまった新鮮さからそんなことを思う。
私が席に付きながらにやにやしているのを、雅くんは心底嫌そうな目で見てから、目を逸らす。
ちが、今のはにやにやというよりは、あれだ、微笑んでいた!そう、微笑んでいたのだ。
しかしながら勘違いされてしまって、気分を害した様なので、もうこちらを見てはくれない。 雅くんの左側を陣取って、顔を覗きこもうとすれば、さらに右へと顔は背かれる。 別に好き嫌い悪いって言ってもないんだけどな―。

まぁ食べないに越した事はないけれど。自分に好き嫌いがないせいか、よくわからない。
はるさんや千富さんが雅くんににんじんを食べさせようとしているのは何度か見たので、やっぱり好き嫌いは よくないよね、という認識である。
はるさんや千富さんに協力しよう、と思い向き直れば、さっきまでそっぽを向いていたはずの雅くんは じぃ、とこちらを見ていた。
なんだろ?と思い首を傾げてみれば、雅くんは、はっと気が付いた様に、顔をそむけご飯を食べ始める。 ちょっとした沈黙の後に、雅くんを見つめ続けていれば観念したかのように、口を開こうとする。




「・・・・あのさ、」
さま!朝食もってまいりました!!」
「うん?あ、ありがとう、はるさん」
「・・・・・・・呪い殺す」
「えっ・・・えー!な、ちょ、どうした雅くん。はるさんはなにもやってないよ」
「すす、すみません!!私なにかしたでしょうか!?申し訳ありません」
「やーいいのいいの、雅くんは色々食べられなくていらついてるんだよね、ねっ」
「・・・・・・・・ふんっ」




どどどどどどうしようぅうう、と困り顔でおろおろしているはるさんが哀れである。
というかこれだけの事で、呪い殺されちゃうなんて理不尽すぎる。
はるさん気にしないで、と声を掛けて和やかに朝の挨拶などを交わしていれば、反対側でがちゃがちゃと 食器の音を立てながら、食べる音が聞こえてきた。
雅くんも朝から大変だなーなんてのんびり考えながら、今日の予定などをはるさんを情報交換する。
一応朝に確認しておかないと、お客様がくる客間に飛び込んでしまったり、テラスでのんびり寝ていられないからだ。 というか本当に私仕事しないな、なんて現実を突き付けられてしまったり。 そんな事を考えながら箸を進めていたのだけれど、ふと、私は気が付いて箸を止め、雅くんの方へ向く。




「そういえば雅くん、今日食堂くるの遅いね、私と被るなんて」
「・・・今日は創立記念日で休み」
「休みなんだー!そっかそっか。あ、博くんは?」
「博さまはまだお部屋で寝ていらっしゃいます、一応起こしたんですけど・・・」
「ふん、」
「博くん寝起き悪そうだもんね、なかなか起きなさそう」
「博さまに御用でしたら、千富さんに言って言付て来ましょうか?」
「ううん、寝ているなら別に無理に起こさないであげて。いつも大変だもんね」
「・・・・・・・・・ちょっと!」
「なに?雅くん」
「さっきから聞いてれば博のことばっかり!なんなの!?僕の横でアイツの話し、しないでくれる?!」
「え?ごめんね、雅くんの事放っておいた訳じゃないんだけど、」
「ばっかじゃないの!?誰もそんな事言ってないし!ばかじゃない?!」




2回馬鹿って言った・・・馬鹿って・・・なんて地味にショックを受けていれば、そんな 雰囲気を察してはるさんは慌てて私と雅くんの間に入ってどうどう、と 宥める。と、宥めていた手が止まった。 ん?どうしたんだろ、はるさん、なんて首をかしげつつ、雅くんのほうをひょいと覗き見れば、 はるさんの視線はがっちりと人参へと向けられていた。



「雅様、人参は食べなくてはいけませんよ」
「はぁ?指図しないでくれる?」
「こんなに残されるなんて・・・!」
「まぁそうだよね、好き嫌いはあんまり良くないよね、千富さんも言ってたよ」
「うっ・・・・・」




言葉に詰まると無言で人参などの嫌いなものを避けながら、ちまちまと他の物を食べて逃れようとする。
雅くん、そんなに嫌いなのか・・・。
勇さんはそんなに好き嫌いないし、たまに私が作るここではあまり縁のない様なものでもわりと 食べてくれるから全然そんな好き嫌いで、食べてくれない!と言う事で悩んだ事もなかったなぁ。



「雅さま、少しだけでもいいので、食べてみましょう?」
「やだ」
「はるさん、ここは私が!・・・・・雅くん、」
「やだよ」
「これを作った料理長の気持ちも考えて食べてあげて。人参もきっと食べて欲しがってるよ」
「やなものは嫌なの!」
「私が人参料理作った時にそんなこと言われたらすごく悲しいと思うんだよね・・やっぱり食べてもらえると凄く嬉しいし」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・さ、食べてみようかな!?」



いいとも!なんて返事はまったくもって期待していないのだけれど、そろっと雅くんの様子を伺えば、じぃっと 人参を睨みつけている。
一応意識はしてくれているようだ。あと、もうひと押し、なにかあともう少しが足りないのだ。あと少し。 ただその人参と雅くんの攻防が激しく、そして思ったより長く続きすぎてちょっと見守るのも飽きてしまった。
や、別に、雅くんの成長がどうでもいいとかそういう訳じゃなくて、ただ単に私が短気というだけの話なのだけれど。



「ほら、雅くん!!!」
「は?!ちょ、」



隣から身を乗り出して小さな一口大の人参を引っ掴み、そのまま箸を雅くんの口元へと運ぶ。
これが一番手っ取り早いのだ。タイミングは計るもんじゃない、自分で作り出すものだ!などと格好良い決め台詞などを 心で浮かべる。慌てた様子の雅くんの口の中へ華麗に放り込む!そして見事に入る人参!
箸を投げ捨て、そのまま雅くんのほっぺたを挟む。
すると、驚いたのか、雅くんはごっくんと人参を食べた。



「食べた・・・・食べた!雅くんが食べたー!」
「そ、それくらい騒がないでよね、恥ずかしいでしょ!」
「雅様、おめでとうございます」



胸の前で両手をを合わせて喜ぶはるさんと、ハイタッチをして喜びを分かち合う。
人参って甘いし、そこまで嫌いだ〜ってなる要素が見つからないから、きっと一度食べてしまえば、と 思って期待した眼差しを雅くんへと向けてみる。



「で!どうだった・・・?!」
「はぁ?なにが?」
「人参の味だよ。嫌いだった?おいしかった?」




そう尋ねてみれば、雅くんは箸を机に叩きつけるようにして席を立つ。 ありゃ、怒らせてしまったかな?なんて若干ハラハラとした気配を背後に感じながらも、その行動を見守る。



「・・・・味なんて、分かる訳ないでしょ」



吐き捨てるようにそれだけ言って食堂から立ち去る雅くんに声を掛けるタイミングを逃してそのまま見送る。 若干耳が赤くなっていたような、そんな気もしたのだけれど。これを期に少しでも好き嫌いがなくなれば いいねーなんて、私は取り残された食堂でゆっくりとした朝食を取ったのだった。











隠れた心を覗き明かして?

「あれやっぱ怒ってたかなぁ」
「好き嫌いが早く治るといいんですけどね」
「うー、なかなか難しそうだよね。はぁ・・・お茶がおいしい」
・・・・
・・・・・
・・・・・・
「ねー!ちょっと今廊下歩いてたら、雅が柱にぶつかってたんだけど?!すごくない!?大ニュース!!!」
「なっ、ちょ、博!お前言いふらすなって言ったよね!?馬鹿なの!?呪い殺されたい訳!?」






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