今日はお休みだ。週に一回のお休みとあって、みんなのんびりとこの屋敷にいる。
お休みの日は無理に早く起きてくる必要もないので、朝食の時間に起きてこない人もいるし、 と思い空席に目をやる。茂さんと博くんと雅くんの席だ。
「あらあら、まだ博様と雅様は起きてらっしゃらないのですか、たえ、声をかけてきてちょうだい」 「はい、千富さん」
・・・・うーん、どうやらいつまでもぐーたらと寝ていることは彼らには許されないらしい。
学校がお休みの時にはどうしても寝坊したいよね〜わかるわかる。私もそうだったなぁ。
うんうんと頷いていれば、頭をがっしりと掴まれてそちらとは逆の方に首を無理矢理向かせられる。




「貴様、何を見ている?まったくお前は、」
「あー!髪がぐしゃぐしゃに・・・せっかくはるさんに整えてもらったのに、酷いですよ勇さん」
「ふん!」


勇さんと話していれば、茂さんが食堂に現れた。椅子を引き座りながら私たちに向かって話しかけてくれる。
相変わらず朝の茂さんの顔は眠そうだ。お仕事が夜からだから無理もないけれど。


「ヒュ〜ッ!朝から熱いね〜!お二人さん」
「・・・あ、おはようございます、茂さん」
「おはよ〜、ちゃん〜。皆もおはよう〜」
「なんだ、いたのか茂」
「もう!二人が二人の世界に入ってるときにね、来たんです〜!」
「・・・・・私もいるぞ」
「正、いたのか」
「・・・・・あの、・・・その、博と雅以外いますよ、勇兄さん」
「そんなことはどうでも良いわ!!!」




申し訳なさそうにそう告げる進さんに、目配せをしてすこし頭を下げる。
理不尽な事も押し通す勇さんの発言に一番振り回されてるの進さんじゃないだろうか、本当に申し訳ない。呑みにつき合わせたり、酔っぱらった勇さんを部屋まで送ったり、無理難題を押し付けられたりと苦労が絶えない。 大変だなぁ〜と思いながら箸で、鮭を口に運ぶ。
純和風な朝食はいつも食パン1枚ジャム塗り塗りで済ませていた私にとっては 豪華なものでいつも朝食が楽しみなのだ。 料理長が気合い入れてくれるから楽しみが止まらないぜ・・・!といつもワクワクしている。
私が来るまであまり料理の事に関して特に言われなかったらしくて、 感想を伝えたら涙を流しそうな勢いでありがとうございますと頭を下げられたここ最近である。 やっぱり洋風な朝食も好きだけど、純和風な食事の方が私はさらに好きだ。日本人だというのを実感するし。
しかも今日は私もちょっとだけだけど手伝わせてもらった。たまにやるお手伝いはすごく新鮮で楽しい。

そんな事を考えながら、料理長スペシャルの味噌汁をずずっと飲めば横からの視線が痛い。 はっきりいえば勇さんからの視線が痛すぎる。 なぜそんなにじっと見つめるのだろうか、思わずたじろいでしまいそうになる。
まだ朝に一人で抜け出して朝食の準備のお手伝いに行ったことを怒っているのだろうか。 一人でいい加減に起きれるようになった方がいいのでは、なんて考えが過る。
味噌汁の器に口をつけながら彼を見上げてみれば、勇さんもこちらを見下ろしていて私と目が合う。

、貴様という奴は本当に・・・、」
「なんですか?あ、布団が朝ちょっと冷たくなるくらい我慢してくださいよ〜勇さん体温高いでしょ」
「帝國男子たるものそのような軟弱なことは言わん!」
「ははは〜ですよね、そんなことで拗ねたりなさらないですよね」
「・・・・・・・・無論である!」


やや間があるのが気にはなるのだが、一通りの悶着はついたように思えて、ふぅと息を吐く。 あっ、これはけしてため息などではない。息だ。息を吐いただけですから!
誰に言うわけでもない言い訳めいたものを心の中で言いながら、ごはんを口に運んでいく。


、」
「はい?あ、醤油ですか?」
「そうではない!気をつけよ、付いておるぞ」
「あれっ、あ!す、すみません、美味しすぎてつい、かきこんじゃって・・・!あはは」


「「「・・・・・・」」」
「・・・・・・・なんなんだろ、ちょっと涙が・・なんで俺こんなんなんだろ・・・」
「・・・コホン、その・・・なんだ。朝食の続きとするか」
「じ、自分は何も見ておりませんッッ!」
「・・・・?どうかしたんですか、みなさん」



名前を呼ばれてそちらに顔を向ければ、勇さんが私の口元に指を伸ばす。米粒が付くなんて恥ずかしい!!
美味しすぎるのも考えものである。 そして少しだけ勇さんが優しく笑みを浮かべた気がして、機嫌が治ったのか!それは良かった!! と若干安堵をおぼえる。それにしても最近の勇さんは私を甘やかしすぎな気がするのだけれど。
なんやかんやと 世話を焼き、口を出してくるのはなんなんだろうか。
ペットと同じ感覚で 接してくれているとは思うんだけどなぁ。でもいつまでも機嫌の悪い勇さんの横には居たくはないものだ。とりあえず 機嫌は元通りになった、と思いたい。

みんなが不自然に目を逸らしつつ、朝食へと戻る。
はぁ、それにしても絶妙な塩加減のたくあんと、ほろほろと崩れるおぼろ豆腐に、ホウレンソウのおひたし、 わかめのお味噌汁に、焼き加減抜群の鮭にほかほかごはん!
う〜ん、最高!こんなにおいしいご飯食べられるのは宮ノ杜だけだよ〜!あ〜ここにこれてよかったなぁ。 うふふ。
微笑みが零れるのを止めることなど出来やしない。炊きたてのごはんを頬張る。おいしい。生きている喜びとは すなわち、食べる喜びと言っても良いだろう。ここの子になれて良かった・・・!

しかし美味しくいただくことは良いのだけれど、食堂にいる全員の目が気になる、こうやわらかく見つめられて いるというか!なんとなくほほえましいというか!
私が食べているときは毎度必ずと言っていいほどこの空気に包まれちゃうよね。
美味しそうに食べる事ってここではあまりないことなんだろうか。



「えーと、・・・なんですか?」
「なに美味そうに食べるな、と思っただけだ」
「え、もちろんですよ!毎日幸せです」
「そのような事で幸せとは、随分安い幸せだな」
「美味しいご飯が食べられるってすごい幸せな事ですよ〜」
「うむ!ならば、めいいっぱい腹に詰めよ!!」
「はっ!!有難き幸せっ!!存分に詰めまする!!」



返事を勇さんに合わせてそう言えば、勇さんは口の端を上げて笑う。 勇さんとはときおりこの軍隊ごっこをするわけだが、多分今の正さん心の中でうるせ〜〜とか思ってるんだろうな、 とその眉間に刻まれた深い深いしわを見ながら思う。勇さんの傍にいるうちにだんだんああいうのが移ってきて しまったんだろうか、申し訳ない・・・っ!
そうこうしていれば、たえさんに起こされたのであろう博くんと雅くんが食堂に現れた。

「・・・なに腑抜けた顔してんの?」
「あっ、おっはよー!!」
「朝ごはんおいしいなぁって思って。おはよう、二人とも」
「げっ、ホウレンソウ・・・嫌い」
「そんなこと言わずに食べてみて。これね・・・私がやったんだよ!」
「えっ、そうなの〜!?が?」
「そうだよ、今日は早起きして料理長と一緒に作ったの」

「ああ〜道理で勇兄さんの機嫌が下降気味だったのね・・・」
「勇兄さん、さんが朝いなかったから・・・そういう事ですか・・・」
「まったく、大佐も情けないもんだ。朝いなかったからどうのこうの・・・ハァ」
「でもまぁ、落ち着いてる方じゃない?勇兄さんにしては」
「〜〜!貴様らには分からんのだっ!!一人で目覚める辛さがな!!」

「・・・大佐・・・・」
「・・・勇兄さん・・・」
「重症だね・・・全然落ち着いてなかったね・・・」
「煩い!!つべこべ言うのならこの場で斬るぞ!!!」
「わっ、ちょ、待て大佐!落ち着け!」




こそこそと何かを話している年長組が気になりつつも、席についてご飯を食べ始める博くんと雅くんに話掛ける。
どうかな?食べてくれるかな?という期待をしつつ、わくわくして待つ。
博くんはホウレンソウをいち早く箸で掴むとばくりと大きな口を開けて食べてくれた。




「うんっ、おいしいよ、!」
「わっ、ほんとう?ありがとう。博くんならそう言ってくれるって思ってたよ!」
の作ったものだもん、美味しくないはずないし!」
「はぁ〜いい子だよね、博くんは」
「雅も食べなよ、おいしいよ〜」
「は?ホウレンソウとか食べるわけないじゃん、兎じゃあるまいし」
「どうしてそういう事言うの雅!頑張ってがつくったんだよ!?」
「いや〜雅くんはそういうと思ってたよ、一筋縄ではいかない感じだもんね〜」
「そうと分かってるなら無駄な事は止めてよね、馬鹿なの?」




ツキツキとした言葉が投げつけられるが、雅くんのこれは照れ隠しもやや入っている事を 私はこの共同生活の中で少しずつ理解してきた。 本気で嫌がっている時もあるけれど大抵は素直になれない裏返しのようなものだ。
そう分かっているからこそゆるーく構えてられるという事もある。

まぁ・・・、 そうではない激情家もいるので、これはみんなに当てはまることではないのだろうけど、 と思いながら後ろの方で刀を振り回そうとしている人を見やる。
・・・・・・・・うん、あれに比べたら。とりあえずあちらは正さんと茂さんと進さんに任せよう。
分別のある大人だ。・・・大丈夫なはず・・・はず。

兄弟の中では比較的常識人サイドに入ることもあって、雅くんは話したらきっと 分かってくれるだろうタイプである。
年下の方がしっかりしているって本当になんなんだ・・・。




「ホウレンソウはとっても栄養があっていいんだよ、だから食べようね」
「いらないし!食べたくないっ!人に強制して食べさせるって最低だし!」
「ええ〜雅いらないのぉ?じゃあ俺もらってもいい?」
「な、なんで博が出てくるのさ!・・・や、やるなんて一言も言ってないし!!馬鹿なの!?」
「だって食べないんでしょ?だったら俺がの作ったやつ食べたいし〜ダメ?」
「・・・駄目」
「ええ〜〜〜!!!?なんでなんで!?」
「〜っ!ああもうっ!うるさいなぁ!食べるよ、食べればいいんでしょ!・・・お前本当に呪い殺すッ!」




箸をひっつかんで雅くんはその宣言のままにホウレンソウを口に放り込む。
博くんのうまい具合の(無意識だと思うけど)アシストが彼をそうさせたのである。グッジョブである。 千富さんも満足げに微笑んでおり、ホウレンソウを食べさせることに成功した私は にっこりと笑みが零れるのを我慢できなかった。




「なんで僕がこんなものを・・・」
「雅、食べれるじゃ〜ん!」
「うるさい、博だまれ殺す呪う」


忌々しげにそういって口の中のホウレンソウを嫌々噛みしめ飲み込んだ雅くんは、 博なんて呪ってやるなどと言いつつ呪いの言葉をぶつぶつ呟いている。




「雅くん、おいしくなかった?」
「なっ、な、なんて顔してるのさ!ま、不味かったよ、・・・すごく!食べてやったんだから感謝しなよね!?」
「雅、だから俺が食べるって言ったのに・・・無理しなくていいんだってば!」
「い、良いんだよ!・・・自分でこの不味い物を食べるって言ったんだから!博は黙ってて!!」
「そっかそっか。でも雅くんが食べてくれて私すごく嬉しいな」
「はぁあ?!お前の為に食べた訳じゃ、」
「もちろん博くんも、たくさん食べてくれてありがとう〜」
「でへへ、の作ったものって美味しいからついつい食べ過ぎちゃうんだ〜でへへ〜・・・って、痛っ!」
「ヘラヘラしてイラつく!博の馬鹿!ば〜か!」




どちらも喜んで(というくくりにする、実際は片方嫌々ながら)食べてくれたことに感謝を示せば、 ぱあっと明るい顔になる博くんとそっぽを向く雅くんと態度は両極端ながら、私は嬉しい気持ちを隠せない。
喧嘩してても仲の良さは隠しきれてない。(前に雅くんに仲良いよね〜と言ったら思いっきり 馬鹿にした顔で貶されたけど) どうにもわんこ属性を隠しきれてない博くんの頭をよしよしと撫でていれば、 隣の雅くんが博くんの椅子を蹴っ飛ばす。わりと足癖がよろしくない雅くんである。
がたんっと椅子から落ちそうになった博くんを支えれば、雅くんはもっと嫌そうな顔をしてば〜か!と口を開く。
それはなんとなく嫌悪というか、ちょっと寂しそうな口調であったので、私はついつい口を出してしまった。




「・・・雅くんも誉めてほしかった?」
「えー!?そうなの、雅!」
「ち、違う、別に・・・なっ、そんな訳ないでしょ!!触らないでよ、気持ち悪くなるからっ!ちょ、うわっ!」
「はい、いい子、いい子。えらいね」




先ほど博くんにしたように、頭に手を置いてよしよし、と笑顔を向ける。こうやってひとつひとつ食べられるように なると いいなぁと思う。健康な身体はバランスの良い食事から、だ!
案外抵抗してこない事に不思議に思って雅くんの顔をのぞきこめば、驚いたような顔がこちらに向けられる。 間近で見る彼の顔は、少しだけ赤みが増していた。
あら?意外に照れてる?しっかりしてるけど年齢相応な所もあるんだなぁ、なんて思ったのも一瞬でその手は跳ねのけられてしまった。 撥ね退けられたというよりは、後ろにぐいっと引かれたというのが正しい言い方だろう。
その腰を引く力が強くて、私は思わず仰け反ってしまう。そのままの力で後ろに引っ張られてしまったので、 固い何かに頭がコツンと当たる。



「・・・もう良いであろう、部屋に戻るぞ
「えっ、ちょっと勇さん!?あ〜もう、はいはい、じゃあね、雅くん博くん!みなさん」


見上げると不機嫌そうな面持ちの勇さんがいた。
とまどいを顔に表せばイライラとした苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる勇さんに、あれ?さっきは 機嫌が治ったと思ったのになぁ、と思いながら後ろを見やる。 さっき暴れまわっていたのは落ち着いたらしく、正さんは新聞を広げているし、茂さんと進さんは ようやく、と言った感じで朝食に手を出し始めている。特に問題はなさそうだ。やや、皆さんのお召し物が 崩れてはいるけれど。




「俺は貴様の所業に真っ先に気が付いていたぞ!」
「え?」
「本当に貴様と言うやつは鈍い!おひたしの事である!」
「あ、ああ〜!本当ですか?勇さん」
「はっ、そんな事言われる前から分かっていた」
「わ〜さすがだな〜、勇さん〜っ、・・・・・・うっ、肩が鳩尾に入るっ、苦しっ」
「注文が多い奴だ。・・・これで良いか?」
「良いというか・・は、恥ずかしいです・・・」



なんだろうか、と首を傾げてみれば勇さんはそのまま私を持ち上げ肩に乗せるようにして食堂を後にしようとする。 慌てて皆さんに挨拶をしたけれど、このような格好ではあまり体裁は繕えなさそうである。
本当であればすごいことだけれど、野生溢れる勇さんが言うと本当に言う前に気が付いていそうだな、なんて 思ってしまう。 なんとなく普段一緒にいると直感とか嗅覚とかが優れているような気がするのだ。帰ってきて すぐに私の居場所を突き止めてしまうところとか。

それを誉めてみれば、勇さんは満足げにふむ、と頷く。 そしてそのままぐいっと持ち上げられて肩に持ち上げられたが、抵抗すれば横抱きにされて次は恥ずかしさが勝る。
苦しいのと恥ずかしいのでは、後者の方がいいかなぁとは思うけれど、究極の選択だ。
思わず苦笑が浮かぶけれど他のご兄弟たちも私と同じ苦笑を浮かべているので、これは”分かってくれている”と してもいいだろう。そういう事にしておこう。
座って箸を握りしめたままの雅くんにバイバイと手を振って私はそのまま食堂から強制連行されたのだった。








愛くるしい心で繋ぎとめて

「嵐のようでしたね・・・勇兄さん」
「まぁいつもだがな。お前らは朝から本当に騒々しい」
「なんだよー!勇たちの方がソーゾーしいよ!」
「た、確かに・・今日のは博の言う事ももっともかもね〜あはは、朝から疲れたねぇ」

「あれ、雅?どうしたの?」
「本当に馬鹿ばっかりで呆れるよ、食欲ないしもう戻る」
「えー!戻るの!?って雅ホウレンソウしか食べてないじゃん、他の物も食べないと、」
「うるっさいなぁもう!いいの!本当はおなか空いてなかったのにわざわざ食べてやったんだからね!」






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