不思議がいっぱいミルス・クレア。
何かが起きるミルス・クレア。
そんな学校が私は大好きなのです!
どっかーん!!
建物がまるまる一棟吹っ飛んだかのような爆発音が学校中に響いた。
何事か!?と反応したのは今年入学したばかりの一年生のみ。
残りの生徒や教師たちは「またか」の一言でかたづけ、その5秒後には日常へと戻っていた。
そんな当たり前じゃないことが当たり前な学校、ミルス・クレアの一室で私は本に埋もれて窒息死寸前であった。
「うぅ・・いったぁあい!!もう、なんで失敗しちゃったかなぁ・・おっかしいなぁちゃんと書いてある通りにやったのに!」
図書室の最上階から引っ張り出してきた本を、私はもう一度読んでみる。
うん、やっぱりやり方は間違っていない。
「おかしいなぁ・・律も間違ってないし・・もう一回やってみよっと!」
「いい加減にしてください、そんなに何回も爆音を聞かされるなんて願い下げです」
「あ、エスト!来てくれたの?」
「あなたが来いといったのでしょう!全く、少しは自粛してください」
「はーい、ごめんなさーい」
「まったく・・一応あなたも教師でしょう。しっかりしてください」
「えへへー」
「えへへじゃありません全く!」
そうなのです、実は私こう見えてここの教師やってます。
といっても特に担当とかはなくて、なんていうのかな?名誉職?みたいな。
いちおうこれでも古代種の端くれだったりするので、エストよりずっとずーっとお姉さん!
のはずなんだけど、いっつもエストからは怒られてばっかり。たまには教師らしいとこ見せないとな。
ミルス・クレアにはイヴァンとヴァニアと私、この三人の古代種が守護役として学園を守っている。
長い間ずっと生徒たちを見守って、たくさんの魔法使いたちを送り出して、たくさんの悲しいことも見てきた。
魔法に夢をいだく人も、失望する人も、嫌悪する人も、たくさん。
けれど、魔法は決して怖いものじゃない。使い方さえ間違えなければすごく素敵なものなんだ。
そのことを世界中のみんなに伝えるために、私は日々新しい魔法を考えているのです。
「・・・別にそれはあなたの勝手ですが、まずはこの崩壊した教室を元に戻すことから始めてはいかがですか?」
「え!?私ってば声にだしてた!?」
「えぇ、しっかりと。あなたが毎日毎日こんな爆発を教室で起こしていることを一般人が知ったら、魔法は恐怖以外の何物にも映らないでしょうね」
「うぅ、痛いところを・・」
「真実です。全く、何回フラスコを割れば気が済むんですか。そもそもこの本は禁書庫の本でしょう!?いくらあなたが古代種でも一教室でこんな実験をするのは危険なんです!」
「・・・・・」
「いい加減、自覚してください」
矢継ぎ早にエストに叱られ、もう私はぐうの音も出ない。
まったくその通りだ。
簡単な魔法ならまだしも、確かにこれは高等魔法。
少しの失敗が大きな惨事につながることはありえないことではない。
一応周囲に結界は張っていても、それも絶対のものではない。
どうして私はいつも気づくのが遅いのだろう。
こうやって言われないと、簡単なことにも気づけないなんて。
「まったく、あなたは聞いているんですか?どうしていつも僕が言っていることが聞いてもらえないんです」
「・・・うん、ごめん、」
「ほんとに反省しているんですか?だったら・・・」
「・・・う、ひっく・・うん・・」
「ちょ、ちょっとなに泣いてるんですかあなたは!」
「私、いっつも間違えちゃうね、先生なのに、古代種なのに・・なんでヴァニアやイヴァンみたいに上手にできないんだろう・・」
「なんでいきなりそんな、素直になってるんですか」
「だって・・だって・・」
古代種。そのたぐいまれなる力。強力な力。
ほかの古代種のようにその力を私はまだ上手に使うことができない。
本当は知っている。
どうして私が名誉職なのか。どうして私に担当教科が任せられていないか。
私は知ってる。
私の不安定な力は危険だってこと。ちゃんと制御できるまでは籠の中に入れておかないとだめだということ。
知っているの、だけどじっとなんてしていられなくて。
「・・・ばかですか、あなたは」
「な!ばかなんて、ひどい・・!」
「あなたが危険だから担当教科を任せてもらえないなんてこと、あるわけないでしょう?」
「へ、だって、え?じゃぁなんで・・?」
「どうしてあなたは気づかないんですか。僕があなたにいつもこうしてお説教をするのも・・・」
「・・・するのも・・?」
「あ、あなたが・・・」
ぷいっと顔をそらせるエスト。
その顔は夕焼けに照らされているせいか、心なしか赤く染まっている。
エスト・・?
そう呼びかけようとしたとき、バタバタと急いで近づいてくる足音が聞こえた。
そして息を切らしながら飛び込んできたのは・・・
「ちょっと!怪我はなくって!?」
「そなたに傷でもついたら大事じゃ!どこか痛いところはないかの!?」
「ちょっと愚兄、に近づかないでくださる!?」
「なにをぉ!愚妹こそにべたべたしすぎじゃぞ!!」
ぎゃぁぎゃぁと喧嘩をし始めるイヴァンとヴァニア。
二人とも私を心配して走ってきてくれたみたい。
いつも失敗ばかりの落ちこぼれ古代種の私に、この二人はいつも優しい。
「二人とも、ごめんね。いっつも心配かけて・・教室も何回も壊しちゃって」
「何を言っておる!」
「そうよ、教室なんていくらでも作り直せばよくってよ!」
「でも、私の変な実験のせいで生徒が怪我しちゃうことがあるかも・・」
「その心配も無用じゃ!」
「が実験に使う教室には私たち二人が編んだ律で守られているから、たとえどんな爆発でも生徒が怪我することなんてありませんわ!」
「へ?そうなの?」
「それよりも!わしはそなたが心配なのじゃ!」
「そうよ!あなたが怪我なんてしたらもう私の寿命は百年縮まるんですのよ!」
「そうじゃ!なんのために担当教科を持たせていないと思っておるのじゃ」
あれ?あれれ?
そういうこと・・・?あれ、どういうこと?
私の制御できない魔法が危険だから教科担任を任されないのでは・・ないってこと?あれあれ?
イヴァンとヴァニアに抱きつかれながら頭にはてなマークを浮かばせる私に、エストはため息一つこぼした。
「だからあなたはわかっていないといったんです。誰も生徒や教室が傷つくことを心配しているんじゃない。・・心配なのはあなたのことです」
「・・・そういう、ことなの・・?」
「鈍いのもここまで来ると拍手ものですね。・・・・ちゃんと気づいてください。あなたにしかできないことだってあるんですから」
そういってエストは私にフラスコを差し出した。
小さなフラスコからはしゅわしゅわと泡がたっていて、ピンク色のきれいな透明な液体が入っていた。
これは私が実験で作ろうとしていた魔法薬。
大きな爆発で失敗したのだと確信していたけれど、どうやらちゃんと成功していたようだ。
差し出されたフラスコをそっと受けとり、じっくり見つめる。
とろりとした液体の中にきらきらと星屑が輝いているのが見えた。
「あなたは、人を幸せにするために魔法を使いたいのでしょう?」
そういったエストに、私は笑顔で答えた。
きらきらの魔法、不思議がいっぱいミルス・クレア。
ちいさな魔法のお城から幸せがいっぱい広がりますように。
その夜、私は学校の一番高い教室からフラスコの中身を空に注いだ。
ピンク色の液体はゆったりと空に広がって、流れるような星のシャワーを大空に描きだす。
その魔法の名前はミルキーウェイ。
天の川を意味する光と闇の混合魔法。
世界がこんな風に光と幸せと笑顔に染まりますように!
そう願いを込めて私は最後の一滴を紺色の空に落としたのだった。
其の鮮やかな色で彩ってあげる
あなたは何色がお好みですか?