「今月から使用人として宮ノ杜につかえさせていただきます、と申します」


ぺこりと頭を下げたその瞬間から、私の戦いは始まった。



底辺の人間たち、というのはこういう人たちをいうのだろうなと思った。
初めに私に与えられた名前は、ごみ、くず、虫。
ふっざけんな!と怒鳴らなかっただけでも私は偉いと思う。
使用人にだって人権はある。発言の自由はあるんだ!ばっかやろぉ!
と心の中では叫んでいたけれど・・


「申し訳ありません、すぐに片付けますので」


その一言を絞り出すまでに、私は顔の筋肉を総動員して笑顔を作った。
もちろんひきつっていたけれど。しわが増えたらどうしてくれよう。
孫の代までたたってやるんだから!


「さぁ、急ぎなさい!もうすぐ皆様がお戻りよ!」
「はいっわかってます!千富さんっ」
「ちょっとはる!なにやってるの、これはここじゃなくて向こうの棚にしまうんでしょ!?」
「あああぁぁごめん、たえちゃん!」


お迎えの時はいつもバタバタ。
掃除道具なんてご兄弟の前で散らかそうものならきっと即解雇なのである。
戦場のように片づけをして、車のエンジンの音が聞こえたらすぐにお出迎え。
なんとも割に合わない仕事である。


「博さま、雅さま、お帰りなさいませ」
「たっだいまぁー!あ、あとでいいものあげるよ!」
「いいもの、でございますか?」
「馬鹿じゃない?博のいいものはくだらないものと同じ意味だってことまだ気づかないの?」
「くだらなくなんかないさ!新発明なんだ!これは、はる吉より先にに使ってみよーと思って!」
「は、はぁ・・・」
「勝手にすれば。おい、。後で僕の部屋に飲み物持ってきて」
「はい、かしこまりました。ミルクと砂糖いっぱいのコーヒーとシュウクリイムもお持ちします」
「ぎゃははは、雅ってば甘党!」
「ば、馬鹿じゃないの!?一回階段から落ちて死んじゃえ!」


やっと最近この二人の扱いはなれたというものの、宮ノ杜家には危険人物がいっぱいである。
年下二人組はかわいいものだ。
最強の強敵は・・・・



「ただいま戻りました」
「ひっ!おおおお帰りなさいませ!進さまっ」
「大丈夫ですか・・?顔色が悪いようですが・・」
「だだ大丈夫ですっ、進さまに気遣っていただくなんて申し訳ないです、失礼します!」


どうにもこの嘘くさい優しさオーラを出している進さまが私にとっては強敵なのである。
腹を読ませないというかなんというか。読めない恐ろしさがある気がする。
なぜだか全くわからないけれど、ほかの人にはなぜ私が進さまを苦手とするのか理解できないらしい。
ハルなんて『一番宮ノ杜の中でまともな人じゃない!』とか言ってたけど、その発言はどうよ。
正解を言うと『一番宮ノ杜のなかでまともそうに取り繕ってる人』だと思うよ私はね。
そそくさと進さまから離れて食堂に逃げ込んだ私。
時計を見るともうそろそろ食事の支度を手伝わなければならない。
さてさて、私も調理班に混ざりますか。
時間に追われ、戦場と化している厨房に乗り込まなければならない。
私は扉の前で大きく深呼吸し、気合を入れるためにクセのある長い髪をぎゅっとくくりなおしたのだった。



そして夜。
豪華な料理が並ぶ中、一家団欒とは似ても似つかない様な空気とともに食事は進んでいく。
話は毎度のごとく当主争いの内容。まぁ食いついているのは正さまと勇さまだけだけれど。


「くそっ、なかなか点がとれん!そもそも宮ノ杜当主の座を点数制などとそんなバカなことがあってたまるか!」
「ふっ、ならば降りるか?貴様が下りればすぐにでも俺が党首の座、貰い受ける!」
「そんなわけあるか!そもそも大佐も点数稼ぎははかどっていないではないか!」
「馬鹿にするな!俺だって準備は進めているのだ!」


むきになった時点で、勇さまも焦っていることはバレバレである。
隣に座る茂さまもやれやれといった風で頭を抱えている。
まぁいつもの宮ノ杜の食卓は、こんなかんじだ。
けれど今日は一つ違うことがあった。
宮ノ杜家当主、源一郎さまが口を開いたのである。



「皆に知らせがある。来月の20日、この屋敷でダンスパーティーを開くことになった」


突然の知らせにみなさん驚きである。
それもそうだ。今日は月末。
宮ノ杜で開かれる催し物は何か月も前から計画と準備を重ねて行われるものだ。
(というかそもそも何か月も前から決めといてくれないとこちらも用意のしようがないのだけれど)
宮ノ杜家は言わずとも知れた名家。
宮ノ杜がこの日と決めればその日に決定なのは日常茶飯事である。
しかしこうも急ということは、宮ノ杜にとって大事なことか・・。
はたまた主賓が宮ノ杜を凌ぐ格上の名家なのか・・。



「それは、また突然の話ですね当主。なにかあるのですか?」
「なにか事情があるのだろう。宮ノ杜の益になる相手でもよぶのですか?」
「なになに?なにか面白いことでもあるの?」
「ばっかじゃないの、博には関係ないでしょ、どうせ」
「はいはい、雅もそんな言い方しないの」
「しかし確かに妙ですね、こんな突然にダンスパーティーだなんて」


「ははは、実はな・・」



『主賓の娘と結婚したもの、そのものに10点与える。つまりそのものが宮ノ杜の当主だ』



その旦那様の一言でその場にいた全員がびしりと固まった。
そして沈黙すること10秒。
初めの第一声は勇さまの不気味な高笑いから始まった。


「はーははははっ!この勝負、俺がもらったな正!これで当主の座は俺のものだ!」
「な、何を馬鹿な!私にだって勝算はあるんだ!」
「しかしまたすごい話だね・・・進はどう思う?」
「そうですね、まぁ人によりけりかもしれませんが・・悪い話ではないと思いますよ?」
「だね。これはちょっと僕も頑張ってみようかなぁ」
「そうですね、わたしもです」
「ちょっとちょっとみんな本気で狙う感じなの!?」
「別にいいんじゃない、博は外れれば」
「だれもそんなこと言ってないだろ!当主に興味はないけど、その子には興味があるかな」
「ふん!女なんてどれも一緒でしょ!」



旦那様から告げられた言葉は波紋を呼び、使用人の間でももっぱらそればかりが噂された。
それからというもの、ご兄弟は各自来月の二十日に向けて衣装や贈り物、はたまた当主後の計画など練り始めたのだった。
突然、主賓の娘と結婚せよといった旦那様の意図はこうらしい。
次に開かれるダンスパーティーにはある貴族のために開かれるようで、その貴族はエゲレスの有名な名家。
王族とも近しい間柄だそうだ。
その当主が来月の18日から一週間来日するそうで、ぜひ宮ノ杜としてもエゲレスの貴族と知り合いになっておきたいらしい。
エゲレスは日本よりも何倍も文明が進んでいるため、今後の貿易についてもつては持っておくことに越したことはない。
どうすればお近づきになれるか、そう考えた結果主賓の一人娘に目を付けた・・というわけ。
政略結婚というやつですよ。悲しい世の中ですなぁ。
なんてぼへーっと考え過ごしていたら、いつの間にかダンスパーティーはあさってになっておりました。
あ、そういえば準備手伝ってない。ま、いいかな。私は私でやることあるし。
しかしまぁ時間なんてあっという間に過ぎるもので。



「いよいよあさってかぁー」
「何がよ?」
「いやぁーダンスパーティーさ、あさってだなぁって思って」
「あんた、日にち知ってて一度も催し物支度手伝わなかったでしょ!?」
「あー・・そうだっけ・・?」
「残念でした!あんたはあさってのぞくこともできないわよ」
「うん、まぁいいよべつに」
「そ。じゃぁ宿舎の掃除でもすれば?わたしはエゲレスの殿方をしっかりみてくるわ!」
「はいはい」


鼻歌を歌いながらガラスを拭くたえを横目にみながら、私はひとつため息をついた。
ぎゅっと絞った雑巾が、なんだかとても冷たく思えた今日。
あさって、20日にこのホールでダンスパーティーが開かれる。
はぁ、覚悟しておかなきゃね。いろいろと。








音楽が聞こえる。
それは流れるようなワルツ。一流のオーケストラ、一流のホール。
だれもがほうっと感嘆の声を上げる会場の真ん中に私はいた。
もう見慣れてしまったこのホールに今更感嘆の声など湧きはしない。
ピカピカに光るシャンデリアだって私がおととい取り外して掃除したものなんですよそこのお嬢様!
そう心の中でつぶやいていると私の目の前にスーツをきっちり着こなした男性がたっていた。
しかも一人ではなく六人。
一人ずつ優雅にお辞儀をして、私にプレゼンやら花束やら差し出すけれど。
私はしっている。あなたたち六人全員がろくでもない人間だということを・・・・!
家政婦ならぬ、使用人は見たのだから!!



「せっかくですが、全員お断りさせていただきます。残念ながら私、宮ノ杜の方々からあまりいい印象を受けていないようですので」
「そ、そんな!なにか問題がありましたか?」
「あの使えぬ使用人であろう、全く・・どこまで足を引っ張るんだあいつは!」
「いいえ、使用人は関係ありません。わたくしが初めて宮ノ杜家にお邪魔した時、正さまや雅さまから名前をいただいたのです」
「名前・・ですか・・?」
「初めてって・・今日が初めて来たんじゃないわけ?」
「お忘れですか?私は忘れてはいませんよ?ごみ、くず、虫。そういってくださったのはあなた方でしたね?」
「ま、まさか・・・!!」
「え、えぇ!?まさか君、ちゃん!?」
「えぇ、です。その節はほんっっっとうにお世話になりました!」



はい、事後報告で失礼しますが。
実は私話題に上っていましたエゲレスの貴族の一人娘でございます。
なんで宮ノ杜で使用人やってるかって?
それは私がお父様に言ったからです。宮ノ杜がどんな家か本当の姿を見てみたいって。
普通の貴族なら反対が当たり前だけれど、お父様はちょっと変わり者で有名でして。
心配するお母様を説得して、いろいろと手を打ってくれたわけであります。
しかしそのおかげでいろいろ成長したしできることも増えたと思うんだ!
ただのお嬢様なんてやってられません!
さぁさぁそこのぽかんと口あけて突っ立っている殿方六人。
心の準備はお済でしょうか?




倍返しにしてあげる、覚悟なさい

結婚の前に性根から叩き直してあげましょう!