「じゃあ、皆さん。さようなら」 教室を出て行こうと思ったら、正面切って、嫌な顔をされた。 なぜ?なんて思っていると、目の前の人が声を上げた。 「はぁ?なんでそんな事すんだよ?」 「なんでと言われても、だって3人とも今は忙しそうだから邪魔しちゃ駄目かなって」 「別にそんな事はないよ。かわいいレディの為なら、」 「それに今日はなんだか那月くんのビオラが聞きたいのよー!」 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」 「なに?その目は」 「シノミーのビオラねぇ・・・」 「はぁ・・・貴女の場合、それが目的でしょう」 「・・・・失礼な!そんな事ない、よ?ちゃんと別の目的もあるし?」 「お前・・・・・なんで疑問系なんだよ。ってか目、泳いでるぞ」 じとっという来栖くんの視線に押されながらも(いやその後ろに神宮寺さんと一ノ瀬さんの目もあるんだけども) さっさと教室を出ようとすると、制服の端をぎゅっと握って、私を教室から出そうとはしない。 教室の入口の柱に手をやって、負けるものかと一歩踏み出そうとただいま格闘中なのだが、なかなかこれがどうして ギリギリギリと力の攻防が続くばかりで一向に勝負はつきそうにない。 「いやぁ、おチビちゃん同士って和むねぇ」 「じ、ん、・・・神宮寺さん!にやにやしてないで来栖くん止めてくださいよー。制服が伸びる!」 「おい、なにお前ら見てんだよ、手伝えよ」 「言われなくてもそのつもりですよ」 いつの間にかまわり込んでいた一ノ瀬さんが廊下側に立って、なんだか珍しいくらいの笑顔を浮かべている。 もうちょっと笑ったら?って言っている時はクールな顔でほとんど動かない表情しかしないのに。 なんだか嫌な予感☆なんて思ったら、まぁ、それが的中した訳で。 「さ、教室に戻るんですよ」なんてその口が言う。あれよあれよと言う間に背中を押され教室へ逆戻り。 反対の声を上げるも、彼は涼しい顔で、どこ吹く風だ。 「うー、もう!なんなの、ちょちょ、ちょっと」 「騒がしいと迷惑になりますから静かにしてください」 「そうだぞー、ちゃっちゃと戻る戻る!」 「来栖くんが一番煩いのよ・・・ちゃっかり一ノ瀬さんまで味方につけやがって・・・」 「おやおやレディ、口調が乱れているよ。それに2人とも、レディをそんなに手荒に扱うなんて」 「神宮寺さん・・・!やっぱり!」 「席に戻ろうね、レディ」 「うっ、わーーーーーーん!ちょ、さっき口説き文句途中で遮ったの怒ってる?」 「そんな事はないさ」 「良い笑顔過ぎる!絶対根に持ってる!もう!ごめんてば」 またしても輝かんばかりの笑顔で前から迫ってくる神宮寺さんはやはりいつも通りの通常運行中らしい。 なんか、あのオーラが色気たっぷりなんですが、これはなんとかならないものでしょうか。うむ。 今度はこっちがじとーっとした目で睨んでみるものの、にっこりと微笑まれてしまっては ぐうの音も出ない。 有無を言わせないオーラがこの辺一帯を包んでしまったのではないかと思ってしまいそうだ。 そんな事を思っていると、隣から来栖くんが口を出す。 「大体お前、那月と仲良すぎじゃねぇ?この前とか昼飯一緒に食ってただろ」 「そう?普通だよ」 「いえ、四ノ宮さんだけでなくて、音也とも仲が良いでしょう?貴方と遊びにいったとかいちいち報告してくるので、知ってるんですよ」 「ふーん・・・そういえば聖川もそんなことを言ってたな・・・課題を一緒にやったとか」 「だからご飯食べたり、遊びに行ったり、課題片付けたりとか別に普通だし。あ、もちろんAクラスの皆は好きなんだけどね」 「俺たちとはあんまりそういうのないじゃん!贔屓だぞ!」 「えーーだって来栖くん、那月くんのご飯食べないっていうじゃん」 「あいつの料理は殺人と同等だぞ、食える訳ねぇだろ!!」 「一ノ瀬さんとは遊びに行ってもなぁ・・・」 「なんです?!どういう事ですか。目を逸らさないでください!」 「あと神宮寺さんは課題から離れてしまいそうだし、片付ける為に一緒にいるのに脱線しそう・・・」 「な、レディ、オレをなんだと・・・」 なんとなく教室の空気が重くなったような気がするけれど、まぁ、気のせいだと思う事にして。 私は当初の目的を果たす為に、教室のドアを目指す。 そっと、椅子から立ち上がれば、来栖くんがそれに反応してきっ、と目線を寄こした。 いやいや、そういうのはアイドルの実技とかでやればいいからね、誰も目線ください〜とか頼んでないから、うん。 「・・・・じゃあAクラスよりSクラスの方が好きだって証拠見せろよ!お前も一応Sクラスなんだし!」 「そんなの無理だよ、だって愛に形はないもの。ほーらよしよし」 「だっ!子ども扱いすんじゃねぇええええ!!どいつもこいつも!!!」 「まぁまぁ落ちつきなよおチビちゃん。証拠は直接レディに尋ねればいい話さ」 「そうですよ、そう焦る事もありません。第一焦ってもいい結果が返ってくるとは限らないですし」 終わらない3人の会話をぶった切る様にして、今度はこそこそとじゃなく堂々と大股で教室のドアをくぐり、廊下へ出る。 最後にドアから頭だけ出して、3人に声を掛ける。なんだか白熱しているなぁ、うーんこれぞ青春? 「はいはい、じゃあね!Aクラス行ってくる!」 「わっ、こらおい!!・・・お前らが余計な事言うから!」 「翔、小さな事をぐだぐだ言っても仕方がありませんよ。落ちつきなさい」 「トキヤ、拳がぶるぶるしてるけど?」 「な、これは・・・!」 「ふん、余裕がない男は見ていてあまりいいものじゃないね」 「貴方も冷や汗凄いですけど?」 「・・・・・・空調が少し調子が悪いみたいだね」 「お前らこそ落ちつけよ・・・」 直ちに証拠を提示せよ (証拠って・・・子供じゃないんだから) |