私を牢に放りこんだ男を絶ッッ対に忘れない。
まぁ、確かに自分が変態的な位置にいた事は認めよう。悔しいけれど、風呂に突然現れた女はかなり不審だ。 だけど話も聞かずに、それってどうかと思うよ!
日本じゃないみたいだから、言葉も通じないかと思えば通じてるみたいだし。 よく分からない世界に、私は飛ばされたようだ。


ぐっしょりと濡れたままの身体で突き飛ばされて、冷たい床に勢いよく座ればそこから水が染みて色が変わる。 目の前の鉄棒を握って辺りを伺ってみるけれど、変わらない薄暗い牢が続いているのしか見えない。

「・・・・はぁ、なにがどうなってんだか」

ついつい口から飛び出した言葉に応えてくれたのは意外な人物だった。






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「あ、あの・・・」
「ん?・・・あれ?女子高生?ってことはここは日本、なのかな?」
「いえ、ここは日本じゃないんです。信じられないかもしれないんですけど、」
「どういう事?」
「あなたも私と同じで日本からここへ飛ばされたんじゃないかって思うんです」
「飛ばされた?・・・やっぱりそうなのか」
「えと、あの・・・・。本、とか持ってませんか?」
「本?いや、持ってないけど。私が持ってたのは菜箸だけだよ」



私の牢の前に立ったのは、一般的な日本の女子高生の制服の上にマントみたいなのを羽織った女の子だった。
・・・さっきの今でなんだが、不審すぎる。
なんでこんなところに女子高生?自分の事は棚に上げておいて酷い言い様である。



「あと、聞きたいんだけど、あなたも同じ?って?どういう・・・あ。えーっとあなたも?」
「私はここに落ちてきた訳じゃなくて、山の中だったんですけどね」
「や、山!?よ、良かった風呂で・・・!」
「(いいのかなぁ、風呂で)」



山の中に行き成り置き去りにされるよりは、風呂に登場した方が何倍も良い気がする。
山、ってまず人と会えないでしょ?かなり私は恵まれている方なのかも。
というか飛ばされた時点でかなりの不運だと思うけど。そして人と会った場所もちょっと不運だったけど。 そう思いながら彼女の話を聞いて行く内に、驚愕の(でももう今更驚く事もないか)事実を知ることとなったのだ。






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「へぇー花ちゃんは玄徳、って人の所に行った訳ね」
「はい。今は玄徳軍の使者としてここにいます」
「わたしもどうせならそっちが良かったな・・・・なんかこことは大違いみたいだし」
「あ、あはは・・・あの人はいつもあんな感じで。私も牢に入れられた事ありますよ」
「そうかー。じゃあいつかは出られるのかもね。良く分かんないけど」
「私がなんとか頼んでみます。出してもらえるように」
「うん、でも気を付けてね。何されるか分かったもんじゃないし!」
「はい」
「私を牢に入れたあの金パ絶ッ対に許さん・・・!!ここから出たら制裁加えてやる!」
「(・・・出しても大丈夫か怪しくなってきたな・・・)」



確かに私も不審者だけど、いきなり牢に入れるってどうよ!?と言うに対して、 その金パがこの軍の一番偉い人だとは言えずに苦笑いする花である。
制裁を加えたりなんだりしたら、公瑾さんが黙ってはいないだろう。なんとか安全にここから出ていける 方法があればいいのだけれど。そう思案した時だった。
足音もなく行き成り現れた人物に声を掛けられて、肩が跳ねた。



「・・・それはそれは、穏やかではないですね」
「こ、公瑾さん?どうしてここへ・・・?!」
「公瑾?」
「あなたと不審人物が接触していると報告を受けたものでね」
「ち、違います。彼女は・・・!」
「へぇー、それでわざわざお越しくださった、って訳」
「ええ、そうです。何をしでかすか分からないのは彼女も、あなたも同じですから」
「使者を信じてないの?・・・ったくどういう国よ?」



呆れた。両国の使者は大切な存在でそれが両国の信頼にもつながると思うけれど。
あ、もしかして対等ではないのかもしれない。この国と、花ちゃんの国では力の関係が違うのかも。
それにしたって国の代表をそんな風に言うなんて信じられない。
私と花ちゃんがいた世界とは違うみたいだから、制度が違うのは仕方がない事だとは思うけど、 それにしたってこの態度はどうよ。
それに、この人はにこにこしてる割に突く所は鋭く厳しい。ぐ、と言葉につまった花ちゃんは 向き直って私に言う。



さん!私の事はいいんです・・・。それよりさんが出られるかどうかが大事です」
「そうやって簡単にいくとお思いですか?どうも使者殿は考えが浅はかで困りますね」
「・・・それは、分かってます。でも・・・」
「仲謀さまに仇なす者をそのまま放って行く訳にもいかないでしょう」
「・・・・確かに、風呂に行き成り現れたのは良くないと思う。でもね、花ちゃんは関係ない」
「庇うんですか、不審者の立場で」
「駄目ですか?庇っては。お言葉ですがあなたの言葉は花ちゃんを虐めているようにしか見えなかったもので」
「虐めとはなかなか。私はそのままを申し上げたまでですよ」
さん・・!」



牢の鉄棒越しに視線をやれば食えない表情のその人。
はぁ、こんないたいけな女子高生を虐めて何が楽しいんだか。国の為だかなんだかよく分からないが、 花ちゃんの事をそこまで言わなくてもいいだろう、と思ったのは本当だ。 花ちゃんは同じ日本から来たという私を心配してくれるけれど、ぶっちゃけこの人、もとい こんな国相手に何かをやろうとするのはかなり大変だ。まだまだ若いのに苦労が絶えないなぁ、と もうすでに自分は孫を見守るおばあちゃんの心持である。
さっきの風呂の子もそうだけど、この人も体外、人の話を聞いてない。
・・・・ま、不審者相手なら無理もないけれど。



「とにかく、私は別にどうにかしようとか思ってないですから」
「そんな事を信じるとでも?甘く見てもらっては困りますね」
「あの、公瑾さん!・・・さんは・・・、悪い人ではないと思います」
「憶測で物を言うのは簡単ですが、それを証明する事柄がお有りですか?」



睨みあう2人。あの・・・私の牢の前って事忘れてないかなー、この人たち。
なんだかここは酷く寒いし、凄く眠くなる。ぺたりと額にくっつく髪の毛はまだまだ水気を帯びていて、 タオルかなにか欲しいんだけどー、なんて言える雰囲気でもなく。
人って体温が下がる時に眠くなるって言うけど、その言葉通りにどんどんどんどん眠くなっていって 2人の言い争いが耳から遠く離れた気がして、少しだけ、と思って眼を閉じた。

眼を閉じても、まだまだ2人の言い争いは続いている様だった。
それならいっそ寝てしまおうかと意識を手放そうとした私に、 いきなり凄い打撃が頭を襲って、なにが落ちてきたか確認するよりも早くやむを得ず意識を失ってしまった私は 、そのまま、固くて冷たい床に打っ伏す事となった。













君の手中にて叫ぶ   01
                           (うー、頭ガンガンする・・・)