・・・・姿が見えない。
どうせいつもの行動からを見れば公瑾と仕事をしているに違いないのだけれど、 そう思って彼の室に行けば、その姿は見当たらない。せっかく時間が空いたから、と 顔でも見ようかと思ったのに、さっそく出鼻をくじかれた。 公瑾にも聞いてみたけれど、午前中は仕事をして、その後は知らないと言う。


だぁあああ、もう!いちいち報告しろとは言わねぇけど!

なんだかんだで自分が一番把握しておきたいものなのだ。特に彼女の事は。
・・・な、なんか悪いか!別にいいだろ!











ひたすら歩きまわってもなかなか見つけられない。自室にもいないようだし、仕事している訳でもない。 一体どこに行ったのか、さっぱり分からない。いらいらとして腹立ち紛れに壁を殴った時だ。その曲がり角の影になって 誰かが倒れている影が見えた。

慌てて駆け寄ると、それは今まで探していたまぎれもなく本物の彼女で。
もしかしてなにかあったんじゃ・・・!と思いしゃがみこんで様子を伺えば、




「・・・・・すー・・・・」
「なんだ、寝てるだけかよ・・・心配掛けさせやがって・・・」





安堵してその傍の芝生に腰を下ろす。
芝生に埋もれるようにして丸くなり眠る彼女がどのような経緯でここで昼寝という結論に至ったのかは知らないが、 何もなかった事に酷く安心した。

こいつは、ふらりふらりとまるでこの地に足が付いていないようで、思考が読めない。この俺様に探させるなんて 事が出来るのもこいつくらいだ。
最初に現れた時も突飛だったけれど、仲謀の事なんてどうでもよさげだったし、関係なさそうに振舞った。 その気楽な感じが癪に触ったりもしたのだが、今ではそんな事は思わない。 ・・・慣れ、とかいう奴だろうか。



頬杖をついて、あぐらをかいて寝顔を眺めれば、あどけない表情。
本当に幸せそうに寝ている。・・・・本当にこいつ俺より年上かよ、とため息と共に吐きだしそうになる。 それに敷地内と言ってもこんな所で寝ていれば、危ない目に遭うかもしれない。一応見つかりにくい場所ではあるし、 芝生があり、さらに良い天気とくれば確かに昼寝はしたくなるのかもしれない。百歩譲ってそうだったとしても、 これはかなり危険な行為だ。
しかしそういったことをまるで考えないのだ、こいつは。何度も何度も俺自身も公瑾も尚香も言っているのにも関わらず、 へらりとした顔で笑うばかりで。
とにかく、には警戒心というものが欠落しているのだ。だから俺は・・・・・、





「・・・・って!俺は何してんだ!」





思わずへ伸ばしかけた手を引っ込めようとした時だ。
お、俺、今、何しようとした?!と自分の手のひらを見返そうと した瞬間の事だった、一瞬の隙を突くようにして、 丸くなっていた身体から急に腕が伸びてきて思いもよらない力で引っ張られる。 そのまま身体は地面へ倒れ、体勢を崩す。 そして次の瞬間、目の前に彼女の顔があった。思わず息を止めてしまう。





「〜〜〜っ!・・・・!!??」





ちょ、離せ!とじたばたしてみるけれどなかなか腕は外れない。
この状況が良いものか、悪いものかどう捉えて良いのか分からないけれど、とにかく危ないのは本当だ。 主に自分の心拍数的な意味で。 ますます自分の腕に力を込めて縋りついてくる彼女はまだまだ夢の中だ。
相手は余裕な顔をしているのがまた気に食わない。じたばたばかりしてすごく格好悪い事は自分でも思ったけれど、 そう簡単に割り切れるものでもなかった。
と、とにかく!落ちつけ俺・・・大きく深呼吸を、1回、2回。・・・・はぁ。





「・・・ったく、しょうがねぇ。お前が悪いんだからな!」





初期に比べればかなり寛大になった仲謀は考える事を止めた。
彼女と一緒に寝転んで、空の青さを見る・・・なーんて余裕はなかったけれど、 それでも一緒に寝転んではいた。
向き合うと彼女の顔がかなり近いので、必死に背けたままだったが。
そんな自分の動悸にも少し慣れたかと思った時だった。隣で丸くなって寝ていたが小さく身じろぎした。 この状態から解放される喜びやら、その反対になにやら惜しいような気持ちも 沸いてきたのだけれどその気持ちには蓋をしておくとして。





「んー・・・」
「やっと、起きるか?!・・・おい!」
「むむむ・・・・ちょっと、もうちょっと・・待って、タロウ・・・・」
「・・・・は?ちょ、待て!」
「なに、もう静かに・・・して、・・・すー」
「・・・タロウって誰だよ、タロウって!おい、起きろ!」
「うるさいな・・・眠い。もうちょっと寝かせて・・・」





やっと起きるかと言う所で、彼女の声の中で聞こえてきた”タロウ”という言葉。
これはまさか。まさかのまさかで男の名前じゃ・・・!?
考えない様に考えない様にするとまたしても疑問は沸き上がってきてしまう。 き、気になる・・・・気になり過ぎる。
しかし自分の腕を握って眠って、さらに巻き込んでおいて、それはないだろ、という気持ちも仲謀の中で生まれた。
完全に板挟みだ。ただの寝てる人間にここまで翻弄されるとは・・・!


完全に動揺した仲謀が、の肩を激しく揺さぶって起こし、寝起きの不機嫌なに強烈な拳を貰った事は言うまでもない。













愛とは総じて痛いものだと
「ふわぁーあ。良く寝たー・・・って仲謀?なに1人で遊んでんの?ひっくりカエル?」
「はぁああ?!ふざけんな、お前自分が何したか覚えてないのかよ!」
「なに怒ってるの。カルシウムが足りないんじゃないの?」
「か、かるしう、む?なんだそれ、ってそうじゃなくてだなぁ・・・!」
「あーもう、耳元で叫ばないでよ、ガンガンするから」






(100406)