こつこつこつ、と硬質な靴音が廊下に響く。
静かでのどかな昼下がりだ。 ・・・・平和っていいわー、なんて思いながら何時ものように、足は自然にヴォクスの格納庫へと動く。 工具をじゃらじゃらと言わせながら、これから出来る整備に顔が自然とにやける。手の中のスパナを くるくるともてあそびながら、この久々の平和を満喫してやろうと考えていたのだ。

さて、最近稼働させて働かせてばっかりだから、綺麗にしてやんなきゃね、 整備に参加させてもらえるのも久々だし、楽しみだー!・・・・・・・・・とまぁ、





・・・・・・・・そうなるはずであった。
はずであったと言う事は、そうならなかった訳で。今現在わたしはひくひくとする青筋を揉みほぐしながら、 その原因と面と向かっているのだけど。



「そんなに怒らなくてもいいじゃん。こんなにいい天気だってのに格納庫?あんな暗い所にいたら 疲れちゃうっしょ?」
「今現在進行形で疲れてるんだけど。誰のせいか分かる?ええ、分かるよね?」
「冷たい事言うなって、まぁまぁまぁ」
「まぁまぁまぁ、・・・じゃないっつーの!」



廊下を歩いていたわたしを見つけるなり肩を抱いて、有無を言わさない感じで椅子に座らされたのが、数分前。 そうして今わたしは、がたん、っと椅子を倒すような勢いで立ち上がりながら、そう、わたしの昼下がりの計画を邪魔した 犯人、無月ヒジリを見た。



「なんで分かんねぇかなぁ?副官なのに趣味で整備なんてしちゃってるちゃんへの、オレのこの気遣いが」
「ほんとうにありがとう感謝してる、あははは」
「棒読み!めちゃくちゃ棒読み!マジでオレの繊細なハートが割れるっつーの!」
「言っておくけど、整備は趣味だから仕事じゃないの。楽しんでるから大丈夫」
「そーんなこと言って気ぃ張ってっと、教官みたいに疲れちゃうよ?」
「アキラちゃんにはちゃんと休息取ってねとは言ったよ、まぁ・・・休むかどうかは怪しいから後で見に行くけど」
「ま、それがいいな。あんたら2人とも見張ってねぇとすぐ無茶すっからなー」



ふ、と笑顔の表情を抜いて、肩をすくめて見せるヒジリくんはやれやれといった様子で首を振った。
まぁわたしの事は置いておくとして、教官である麻黄アキラは仕事熱心な上に無茶しやすい。頑張りやな所は とても好感が持てるし、仕事熱心とは言えないわたしは見習わなければなぁ、と思いつつ。
無茶しやすい、ってこともあるのでそこらへんは上手く誘導して休息を取らせてるんだけど、アキラちゃん、 部屋に押し込めても書類整理とかやってるしなー・・・・。
教官が戦闘指揮に集中出来るようにって配属 されたのが副官であるわたしなんだけど、書類は次から次へと出てくる訳で・・・。甘粕くんともひーひー言いながら 昨日山のような書類片付けたのに、今日になったらまた同じ量が積まれてたなんて・・・信じたくない。



「なっかなか、思うようにはいかないって事か・・・」
「手伝ってはやれねぇけど、ほらこれやるよ」
「わっ、マンゴージュース果汁100パーセント!好きなんだよね、これ。ありがとう!」
「ん?もしかして、オレに惚れちゃった?・・・・・このままデート行っちゃう?」
「いや、どっちかっていうとマンゴージュースに惚れたかな」
「・・・・・振られちまった、しかもマンゴージュースに負けんなんてよ・・あっけなさすぎ」



がっくし、という効果音が聞こえてきそうなくらいがっくししたヒジリくんは自分の分のマンゴージュース果汁 100パーセントを勢いよく吸いあげた。
リュウキュウでも有名なこのマンゴージュースは濃厚でかなりおいしい。こっちに赴任してきてから、わたしの お気にいりになった。何故、ヒジリくんがそれを知っているのか、それは分からないけどマンゴージュースの 魅力には勝てなくて自分もストローに口を付ける。
すると前にいたヒジリくんの眼が光った気がした。なんか嫌な予感がする・・・ヒジリくんが生き生きしてる 時ってろくな事がないんだよなぁー。
疑惑の目を向けつつも、マンゴージュースのおいしさは変わらず、その喉を通り過ぎる感覚を楽しんで ストローから口を離した。一気に飲んじゃうのもったいないなぁ。



「はー・・・・・・・おいしい。生き返るわぁ・・・ってああ!」
「へへん、これ頂きーっ!んじゃな?副官!」
「は?!ちょ、まだマンゴージュース残ってるのに、なんで、ちょ、待ってって」
「もともとオレがあげたモンなんだから、オレがもらっても何も問題ないっつうの!」
「自分はちゃっかり1本飲んでるくせに・・・!ずるいよ!」
「んじゃなー、あんま根詰め過ぎんじゃねぇぞ!」



わたしから奪ったマンゴージュースのパックを手に収めたヒジリくんはやけに嬉しそうに去って行った。 背中が、全身からうきうきオーラがでている。なんだというんだ・・・。
対してわたしはマンゴージュースを奪われた悲しみとかきまわされた疲労感でどんよりとしたのだった。








君をいただきっ!
「ふっふーん、お、タクト。どしたんだよ、こんなとこで」
「ヒジリか・・・なんだ、やけに上機嫌だな」
「おっ、それ聞いちゃう?!聞きたい?!実はこれ」
「・・・・なんだ、マンゴージュースがどうかしたのか」
「これちゃんの飲・み・か・け、な訳」
「な・・・ななななな??!!ど、どうしてそれをお前がっ!」
「羨ましがってもやらねぇかんなー」
「ちょ、おい!ヨウスケ、大変だ!ヒジリが!!!」
「チッ、なんだ騒がしいぞ、タクト・・・・」






このあと大騒ぎになる予感。
でもヒジリピュアで純情だからドキドキして結局飲めなかったり・・・笑
(100710)