「なーにしてるの?」
「わっ!!・・・・・・・・・なんだ、貴女か」
「うん?・・・・ああ!誰か他の人と期待させた?」
「な、別にそんな事言ってない・・・」
「ん?なんか言った?」
「別にーなんでもない」



ひょいっと後ろから覗きこめば、振り返ったヒロくんの表情が一気に驚きと緊張が混じったものになる。
まだまだ緊張させてるのかー、と苦笑いを浮かべつつ、もうわたしが配属されてから数カ月が経ったんだなぁ、と 感慨深くもなる。
消え入りそうな声で何かを呟いたヒロくんはぷいっとわたしに背を向けると、抱えていた本をまた広げてページに 目を落とした。



ヒロくんと会ったばかりのころはもっとそっけないというか、口を利いてもらえない、というか目も 合わせてくれない、そんな状態ばかりだったから、まだ反応が返ってくるだけ一歩前進していると 思ってもいいだろう。ユゥジくんが通訳になっていたと言っても過言じゃない。
「どうしたらヒロくんと会話できるか」という議題の元、話し合ったりもしたっけ・・・・。
成果はよく分からないけれど、 一歩進んで二歩下がる、そんな毎日だ。まぁ、わたしなりに楽しく過ごしてるつもりである。



「・・・なんで横に座るのさ?」
「駄目だった?だって立ったまま話すの疲れるじゃない」
「ここに居座るつもり・・・?って・・・・そう言う事じゃなくて、」
「いやぁ、半端ない書類を石寺長官に押し付けられて、それ片付けてからフェイザーの整備やってたら もう夕暮れ・・・一日ってあっという間だよね・・・」
「話し逸らさないでよ。その整備する時間を休憩に使えば?ほんっとダメダメなんだから」
「みんな整備しなければ、っていうけど、これは趣味なんだから止めるなんて無理だよ」
「ふぅ・・・じゃあしょうがない。せいぜい頑張ればいいんじゃない?」
「まぁね、頑張るしかないか、うん。よしよし」
「ちょっと!子供扱いしないでってば!」



突き放すような言葉だけども、裏は優しさがこもっている事を感じたわたしはそっぽを向くヒロくん目掛けて 手を伸ばして、頭をぐしゃぐしゃ、と撫でた。
嫌がるヒロくんだったけれどもそれでも構わず撫で続けていると、徐々に抵抗は弱くなり、大人しく なる。 お、これはまた一歩前進なんじゃない?とか思っていると、ヒロくんはまたしても消え入りそうな声で 何かを言う。零れ落ちない様に、聞き落としのない様に耳を傾ける。



「あの・・・・・さんは・・・ユゥジと何を話してたの?」
「・・・・・・はい?いつの話?というか何の話?」
「だから!前にボクとユゥジと貴女でいた時の事!あの後二人だけでどっか行っちゃったでしょ」



突然の話題の転換と、問いかけに、真顔で聞き返してしまった。それくらい くるっと振り向いて勢いよく吐き出すように言うヒロくんはわたしにとっては初めての経験だ。
こんなヒロくん初めて見たぞ・・・!というかヒロくんと会話出来ている事が不思議である。 しかし言われた事には覚えがない。首を傾げて唸っていると、ヒロくんは苛立ったようにさらに言葉を重ねた。



「もういいよ、覚えてもいないような、ちっぽけなことでぐちぐち言っても仕方がないもん」
「えー、ちょ、待ってよ。思いだすよ。せっかくヒロくんから話題出してくれたのに」
「別に思い出して欲しい事じゃないんだけど・・・」
「うーん・・・ユゥジくん?そんな二人で話とかしたかなぁ・・・」
「だから、もういいってば!最近二人でいる事多いからちょっと気になっただけ」
「そう?そこまで言うなら・・・、」



なんだったかなぁ、と首を傾げるも、ヒロくんはちょっと焦った様に思いださなくてもいいの!と 強引に話題を立ち切ってしまった。ヒロくんから話題を振られるなんておそらくこれからも一生ないんじゃないか、 なんて疑ってしまうくらいに貴重な経験だったのに。 というかユゥジくんといる時って大体ヒロくんの話だし。
もういい、と言われたけれど、気になって考え込んでいるとヒロくんは「本当にもう気にしなくて良いから」と いう一言でその話題を終わりにしてしまった。・・・・・・気になる。



「おっ、二人とも、こんなところでなにやってんだー?」
「あ、ユゥジ!」
「ユゥジくん!」
「なんだよ、二人して・・・俺の顔になにか付いてるか?」
「いや、今ヒロくんがね」
「〜〜っ!なし、さっきのなし!じゃあもうボク行くからねっ」
「あ、ヒロくんてば、どこ行くの」
「図書室!」
「・・・・お邪魔だったか?」



少し気まずそうな感じでそう聞くユゥジくんに、いやぁ?と首を傾けて見せると、「ま、ヒロも 少し成長したみたいだな」と意味ありげに微笑まれた。・・・ちょっと意味分からないんだけど。 だれか説明を求む。









ダメダメじゃない理由
「それにしてもヒロと一緒にいるとはなーこりゃぼやぼやしてらんないな」
「・・・・なにが?ヒロくんを取られることが?」
「どうしてそう斜めに取るんだよ、お前は・・・」
「大丈夫だよ、ヒロくんはみんなのものだから・・・可愛いよねぇ・・・」
「お前ヒロに掛ける情熱だけ半端ないよな・・・」
「だって他のメンバーやたらでかくて目を合わせるだけで首痛くなるから」
「それ理由?!そんな理由?!好きででかくなったんじゃないんだぞ!!」
「そんなに必死にならなくても・・・ユゥジくん、落ちつけ」






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