「おやこんな所で会うなんて奇遇だね、レディ」
「ああ、神宮寺さんかぁ」
「神宮寺だなんて、他人行儀な真似は止めてくれないか」
「神宮寺さんは神宮寺さんですよね」
「またまたつれないねレディは」
「というか奇遇でもなんでもないですよ。ここ教室だし会わない方が難しいんですけど」
「そうやって夢のない事言わないのが約束さ」
「はいはい、すみません」




先生に言いつけられた雑用をこなして教室に帰れば、お昼ご飯を広げていた友達は皆、食べ終わってしまっていた。
課題を片付けなければいけないという友達を見送って、私は1人お弁当箱を広げた。
さて、と卵焼きをフォークに突き刺した所で、これだ。
一応友好関係的には卵焼きよりも人間を優先しなきゃいけないだろうなぁ。なんて考えながら、一旦卵焼きから目を離して、視線を上げる。

にこり、とひきつった笑顔を浮かべてみれば、相手もにこり、とこれまた魅力的な笑顔を返してくる。
この笑顔に 惑わされて幾人もの女の子が餌食になったのだと思うと、その笑顔はとても怖い物に思える。
イケメンとは恐ろしい物だ。こう、別のクラスから見つめるだけであったのなら、とても良い目の保養になるのに。
あまりに距離が近いと気遅れしてしまって、なんだか落ち着かなくなる。
不思議なものだ、人間って住む世界が違うとこんなにも恐怖を覚えるものなのか。
例えばミジンコと妖精の様な。いや、けして自分をミジンコと言ってる訳じゃないけどね。




「ええと、それで?」
「・・・それでって?」
「あの、それで?」




首を傾げると、彼も目の前で首を傾げる。 ゆったりとした動作がまた絵になる御方である。
机を挟んで2人して首を傾けているのが、少し笑えるけれど、・・・いやいやいやかなり笑えない。
笑えない距離で詰めてきている。かたりと椅子を少し引いてみるものの、その差はすぐに縮まってしまい、 またしてもにっこりと笑われる。
逃げられない、だ、れか、とその笑顔から目を逸らし助けを求めようとするが、 ・・・・・が、視線を左に向けたら、来栖くんにさっと逸らされ、右に向けたら、一ノ瀬さんに無視され、 その他は見て見ぬふりである。かなり世知辛い世の中だ。
っておい、一ノ瀬さんの読んでる本、私が図書室で必死に探しまわった本じゃないかぁああ!
ついつい視線が一ノ瀬さんの読んでいる本に集中してしまう。
にも関わらずの徹底した無視の態度に、 くうううっと悔しさが募る。(さっき聞いたら、そんな本知りませんよ、って言ってたくせに!)

頬を膨らませれば、すっと手が伸びてきて私の両頬をぎゅっと押さえる。 さぞかし今私は不細工な顔になっているだろうと考えると、悲しくなってきた。目の前の人の美貌を見ていると 余計にそう考えてしまうから、また悲しい・・・・!
苛立ちは本人へそのままぶつけるべし、と私は視線をきっと神宮寺さんに向ける。
すると神宮寺さんはおや、と軽く驚いた様な表情で私を見た。




「本当にもう!・・・・神宮寺さん、」
「なに?」
「・・・・っ、こ、こっちがなに?ですよ」
「いや、本当にレディは可愛らしいなぁと」
「な、なにを企んでるんです・・・?・・・なにもあげませんよ!!」




はっ、とたどり着いたその思考は、私を行動へと迅速に移させた。
私は机の上にあった弁当箱を神宮寺さんの手の届かない所まで距離を取る。 左手にお弁当、右手にはフォークに刺さった卵焼き、どちらも失う訳にはいかない!
けれどそれは華麗に阻止されて、そのまま私の右手の卵焼きは神宮寺さんの口へと運ばれてしまった。


「あーーーーーーっ!!!!」
「ごちそうさま、・・・・甘いね」










強引なハートビートを

       つかまえて

「なぁ、トキヤ」
「・・・はぁ、なんですか」
「あの2人・・・」
「どうせレンがからかって遊んでるんでしょう、まったく騒々しい」
「オレにはいちゃついてるようにしか見えないんだけど・・・・」
「レディの瞳に俺が映る所が見たくてね」
「うおっ!れ、れ、レン!いたのかよ」







(110804)