寒い日のことだった。口からひゅぅと吐けば白く広がっていく息。
それを見てもっと寒くなってきた私は、コートの前をかき合せて、どうにか温かさが逃げていかない様にする。
はぁ、ホッカイロもう一枚持ってこれば良かったなぁ。


そもそもこんな寒い日に外に出るなんて本当にどうかしている!!
もう一度言うけれど寒過ぎて、ほんともう!一歩出た瞬間に後悔が襲ったけれど、 一歩出た手前引き返すことなぞ出来る訳もなく、私は、ぐっと拳を握りそれをポケットにつっこみ、歩き出した。
いざゆかん!!・・・・・・・・・・・・・コンビニに、肉まんを買いに。

















ありがとうございました〜の声と共に自動ドアをくぐれば、またもや私を迎える激しく肌を刺すような寒さ。
死ぬ!!死んでしまう!!とか思いながらも首をすくめて寒さから身を守る様にして歩く。 いや、でもこれを乗り越えればやっぱり温かいにくまんに暖かい部屋がきっと迎えてくれるに違いない。
うん、そう、きっとそう!頑張れ頑張れ!と心の中で自分自身にエールを送りながら歩を進める。 いつだったか、お前は頑固すぎる!と言われた事を思い出す。 いやいやでもね、意見をころころ変えちゃう人間よりは余程良いと思うのよ・・・うん。




そんな事を考えていれば、もう10時回っていたのね、なんて時計に目をやる。
一番近いコンビニまでが遠いってどういうことだ。まぁ店内で無駄にぐるぐるしたりしたのもタイムロスだったと思うけれど、 道理で寒いし、暗いし、寒いしな訳だよね。2回言ったのには別に訳はないけれど、それだけ寒いと言う事だ、察して 頂きたい。
とりあえず早く自分の部屋に行こう、と歩みを速める。

角を曲がった所で誰かの影がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。
暗いから良く分からないけれど、こんな時間に歩いているような人は私の知り合いにはいない。 というかみんな寝てるはずだし、そこまで夜更かしするような人はいなかった。まして出歩くとかはもってのほかである。




そのまま相手とすれ違おうと思い、道の端による。
するとその相手は避けずに私の元まで走り寄ると、そのまま手を振り上げて私へと振り被る。 突然の事で私は抵抗する間もなく口を間抜けにあけたまま、固まる。
いや、だってそうでしょ、こんな奇行する人間私は知らない、知らない。少なくとも他人だ。 何をされるのかと瞬間、瞑った目とすくめた身体に、ふわっと暖かい物がかぶされた。 え?と思って目を開けてみれば、そこにはちょっと眉を吊り上げて怒ってますオーラを出す音也くんの姿があった。




「え?ええ?・・・・えええ?」
「どうして寒がりなのにコートだけでコンビニなんて行くんだよ!」
「え・・・?あ、ああ、ごめん、・・・じゃなくて、え?音也くん?」
「そうだよ、ほら、マフラーぐるぐる巻いて!あと手袋も忘れてるし!」
「あ、うん・・・」




次々に渡されていく、防寒具に身を包みながら、疑問符でいっぱいになって首を傾げる私に音也くんはまったく!と 言いながらマフラーを巻きつけてくれる。 巻きつけてから後ろでぎゅっとマフラーを結ぶ時、彼の体温をすごく近く感じて、寒かったはずの身体に少し熱が入る。
結び終わって、身体が離れて改めて顔を見れば、 ど、どうやらさっきと同じく少し怒っているモードみたいだ。
こんな所でどうしたの?コンビニ?なんて、音也くんが持ってきてくれた手袋をはめつつ、的外れな事を聞けば、 音也くんは腰に手を当てて口を開いた。




「だってこんな時間になっても部屋にいないし、心配になるじゃん」
「・・・へ?」
「だーかーらー、心配になったの!女の子がこんな時間に1人で外にいちゃ駄目!」
「え、心配してくれたの?」
「だからさっきから言ってるじゃん」




そう言い捨ててから少し恥ずかしくなったのか、そっぽを向いて歩きだす音也くんに駆け寄って聞いてみれば、 もう一度そう言ってくれる。
あらら、優しい、なんて思いつつ彼の手を見てみれば手袋はなし、そして彼もなかなかの軽装だ。
人の事を言えないくらいに寒そうな格好だ。まぁ、音也くんは寒がりなイメージもないけど。どっちかっていうと 外を駆けまわる犬の様なイメージをしてしまうしね。
先を行くものの、歩幅は合わせてくれている音也くんの腕を掴む。この寒そうな手を放ってはおけない・・・!
緊急事態だ。
あのね、ちょっと待って、なんて言って引きとめれば、え?と少し驚いたような顔で音也くんが振り返る。




「寒いでしょ?音也くんこそ、そんな軽装で外に出たらだめ」
「えっ、あー・・・あ、その、が心配でつい飛び出してきちゃった・・・・」
「もう!人の事言えないよ?」
「ごめん・・・あの、・・・!」
「はい!これ!!」
「え。・・・・・・あ、うん。ありがと・・・」
「少し冷めてるかもだけど、ないよりマシでしょ?それで手温めて。マフラーのお礼!」




拍子抜けというか、驚いた顔のまま肉まんを受け取る音也くんは、ただただ戸惑っていたけれど、 肉まんをじっと見たかと思うと、急にこちらに身体を向けてあのさ!と声を出した。

あー肉まん5個くらい買っておいて良かったー。まさかこんな所で役に立つとはね! 人生ってどう転ぶかまったく分からない。さっき5個は買いすぎかな?なんて思ったけれど、ためらわず購入に踏み切って 良かったと心底思う!
肉まんを取り出して、私も食べようかな、とコンビニの袋を覗き込んでいた私は、そのままんー?と あやふやな感じで返事を返す。




「・・・・俺、肉まんじゃなくて・・・・と手を・・・」
「私の?手?・・・・・は!!もしかして、」
「え?!あ、あの嫌ならいいんだ、別に!・・・そのもし良かったら、なんだけど、」
「うーん、これは高くつくよ・・・?まぁ、いいか・・・はい」
「え!いいの?!・・・・・・・って、え、なに、」
「なにってホッカイロだけど・・・。あ、大丈夫。反対の手にもホッカイロ持ってるから心配しないで!」
「あ、うん・・・ありがとう・・・」




ぎゅっとホッカイロを握って肩を落とす音也くんだったけれど、よく分からない。
なんでか少し落ち込んでいる様にも見えて、肩をぽんぽんと叩けば、〜と少し語尾を伸ばした感じに呼ばれたけれど、とりあえず肉まん食べなよ、と促す。
そうだね、別に悲しくなんてないよ、俺・・・頑張るよ・・・と言って肉まんを食べ始める音也くんであった。

頑張っても寒い物は寒いのに、いやぁ、前向きな人だなぁと考えながら私たちは帰途を急ぐのだった。









あたたかさをください!

「おかえり!!おい、どうだった音也!」
「うん・・・想像以上には難敵だった・・・俺大丈夫かな・・この先やっていけるかな・・・」
「そんな事を言っていてどうする!いいか!頑張ればきっと報われる日が来る!」
「ちょっと、そんな適当な事を音也に吹き込まないでください!変な方向に暴走したら困るでしょう」
「まぁ、レディの心を掴む手助けくらいなら、俺にも手伝えるだろうし、イッキ気を落とさないで」
「ふふふ、音也くんもちゃんも並んで歩いているの見ましたけど、とぉーってもお似合いでしたよ?ファイトです!」







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