「はぁ〜今日も疲れたなぁ」
「ケン王の撮影も無事終わったんだよね、良かったね」
「おう!」
「あ、おつかれさま〜音也くん、来栖くん」
もおつかれさま!」
「おつかれ〜」




ぐだぁ、っと机に寝そべるようにしてだらりとするのは来栖くんである。
ちょうど淹れてきた紅茶を二人の前に出して、適当に作った茶菓子も共に勧める。 おなかが空いているこの年頃の男の子にはまず、足りない量ではあるがないよりはましだろうという 気持ちで差し出せば、予想に反してきらきらな笑顔が返ってきた。




「わぁ、これがつくったの?!すっごいなー」
「へぇ・・・・久々に那月以外の菓子をみたぜ・・・・普通だ・・・」
「む、普通が一番だよ」
「や、違う!普通は誉め言葉だ!!」
「翔〜、そんなに断言しなくても。確かに那月のお菓子はすごいけどさぁ」




どよどよとした空気を垂れ流しているけれども気を取り直して二人はクッキーやらマフィンやらを 手に取る。ぱくりと口へと運べば、むしゃっむしゃっとそれは見る間もなく姿を消し彼らの胃袋へと消えていく。
その様子を頬杖をつきながら眺めていれば、来栖君と目が合う。
目が合うと気不味げに視線をそらす来栖くんであったけれど、 それは目ざとく音也くんに発見されてしまった。



「ほんとは翔のことすきだよね〜」
「うん!好きっていうかもう尊敬っていうか唯ちゃんが好きなんだよね〜」
「ばっ!てかなんで唯なんだよ・・・」
「覚えてない、の?」
「覚えてないのって何がだよ」
「なになにー2人の間で何かあったの?」
「唯ちゃんはね壮絶な女の戦いに勝利したんだよ、ね!」
「そんなことしたっけか・・・というかお前と会った事あったか?」
「覚えてないの?」
「悪いけど、覚えてない」
「そう・・・それもそれで凄いなーって思っちゃうけど」




2回同じ流れを繰り返したところで、本当に覚えてない、という来栖くんの言葉に 目を丸くする。
あんなにすごいことしたのに、なんていうか大物だよなぁ、なんて過去の出来事に思いを馳せそうになる。
まぁアイドルであるときの自分と普段の自分はギャップが激しくて 気がつかない場合が多いのは事実なんだけど。




「そーいえば、俺たちにも話してくれたことないんだよね、小傍唯との話」
「だってうれしかったから、あのね」
「・・・・・」
「所詮顔で成り上がったくせに、生意気なのよ!って覚えてない?」
「・・・・・・・!」



そこで、初めて気がついたかのように顔を上げる来栖くんに、私は苦笑気味のかろうじて笑顔を浮かべる。
まぁその時には駆け出しって事もあって、そんなに売れてなかったかもだけど一緒に仕事した時もあるんだよね。
あれはモデルの撮影の時の事だった。私の衣装だけ運搬が遅れて撮影自体が遅れてしまった時のことだ。 ただでさえ進みが悪かった撮影だったからいらいらしたのだろう。先輩モデルの苛立ちが最近 有名になってきた私へと向いたのだ。
新人だし、まぁそういうこともあるだろう、なんて構えていた私には 想定内の出来事ではあったものの、直接の悪意というものはやはり少し怖くて少し俯いたその時だった。




「所詮顔で成り上がったくせに、生意気なのよ!なんでアンタのせいで撮影遅らさなきゃいけないわけ?はぁーあ」
「・・・えっと、」
「なっ・・・!ちょっ、衣装が来ないのはこの人のせいじゃ、」




傍にいた小傍唯ちゃんが割って入ってきてくれたのだった。
でもこの子まだデビューしたての新人も新人。確かにかわいいし、存在感は感じる。でも先輩に楯付いたらそれこそ もうこの業界ではうまくやっていけなくなってしまう。
しかも自分のことじゃない、私の の事でだ。そんなことでこの子の可能性をダメにしたくはない。
私は前に出る。唯ちゃんのリボンが動揺したように揺れたけれどこれは私の問題である。



「唯ちゃん、いいの!」
「はぁ?あんたのそういうところが癪に触るのよね、はやくいなくなってくれないかなぁ」
「・・・」
「ふん!」




だからなんだって話。 苦しくて辛いなんてわかっていた話。だからなんとも思わない。
きゅっとにぎった手にいろんな感情を込めて表に出さないようにして、笑え。笑え笑え。
大丈夫アイドルだもん、笑えば輝けるから、アイドルらしくいよう。にこやかに笑って私は振り返る。

「唯ちゃん、ありがと・・・・っな、なに?」
「・・・なんで、」
「なんで?あ、さっきの?だってほんとのことだもん。確かに顔だけだし、そう思われても仕方が無いって思う」




思いがけずかわいい顔に苦悶の表情と、怒りの表情が交じっているように見えて、私はたじろいだ。
この子、見た目に反してかっこいい心根を持っている気がする。 誰より可愛くて誰よりも輝く存在になりたくてこの世界に入ったのに現実に待ち構えていたのは、全く違う日陰の世界で・・・。 そんな悲しい現実を認めつつもここで働くにはそうするしかなかったのに、ここまで感情をあらわにして 別に関係ない私のために怒ってくれる女の子がいるとは。
ちょっとじわりときますよね?と音也くんの方を向いて微笑めば、輝いた笑顔を返してきた。



「翔!やるじゃん!すごいよ、俺感激した!」
「なっ、ちょ、あの、あの時のモデルがお前だったのかよ!」
「そーだよ〜まぁ、小傍唯はそのあとすぐにいなくなっちゃったんだけどね」
「うっ・・・・・・あ、あれは期間限定っつーか本業じゃないっていうか・・・」
「その時からなの、私が小傍唯を好きになったの」
「そうだったんだ・・・」
「これで分かってもらえたかな?小傍唯ちゃん」



とっておきの笑顔で微笑んでみれば、来栖くんはまた過去の自分の行動を思い出したのか カップを口に運んだそのままでまたしても視線だけずらした。
どーにもこーにも彼は私とは視線を合せてはくれないみたいだ。
でもその帽子の下の耳が少し赤くなっていることから、ただ照れているだけだと分かる。
可愛いけれど、男気溢れる性格はやはりこの子の良いところに違いないと私は再び確認することとなった。













心まで響き渡れ!









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