廊下まで転々と続く水の後を追うようにして拭いていれば1人の人物が前をゆるゆると歩いているのが見えた。
朝も早いことだ。昨日のお仕事が長引いたんだろう、あくびを噛み殺している。
あれか、と早々に原因と出会ったので、その人を追いかけて、肩をたたく。



「おはようございます寿先輩。お風呂出てから水浸しでそこらへんを歩かないでくださいね」
「おはよ〜・・・えっ?あ、え?だ、誰?」
「あ、私、と申します」
「新しく入ったマスターコースの子かな?初めて見る子だな〜」
「・・・・違います、バイトです」
「そ、そうなんだ。僕は寿嶺二。よ、よろしくまっちょっちょ〜」
「はい、よろしくまっちょっちょ、それはいいからバスタオルでちゃんと拭いてから出てください」
「は、は〜い」



そんな感じで寿先輩と話していれば前の方から人が歩いてきた。
あれは・・・朝から完璧な一ノ瀬さんだ。 朝も早いっていうのに身支度も完璧なところをみると、さすがだなぁと思わずにはいられない。


さん、おはようございます。・・・大変ですね」
「おはようございます、一ノ瀬さん。美風先輩によると問題児は限られているらしいので私の心労はそれほどでも」
「ちょ、ちょっと?!」
「そうですか、色々大変だとは思いますが、頑張ってください」
「ねぇ、トッキーまで!」
「はい、一ノ瀬さんこそ、色々大変な方と同室なようなので、頑張ってください」




そんな会話をモップを握ったまま、一ノ瀬さんと繰り広げる。
どうにもこの人からは芸能界にいたときから苦労性を感じる。あの芸風の時にはむしろ逆の立場だったような 気もするけど、素の時の一ノ瀬さんは振り回される側だ。どうみても。
大変だなぁ、聞くところによれば、一ノ瀬さんの同居人は学生の時と同じ、一十木音也とこの先輩、寿嶺二だそうだ。
うーん、これはどうみても一ノ瀬さんの胃が痛くなるパターンだ。大変だな・・・。 そんな呆れたような表情を浮かべる私と苦々しげな表情を浮かべた一ノ瀬さんの横をぴょこぴょこと動く25歳児がいた。
さらに深く深く一之瀬さんはため息を吐いて、腕を組む。



「そんなに僕のこと邪険にしなくてもいいじゃない〜!」
「共同生活において皆の共有スペースを乱すのは良くないことと思いますが?」
「うっ・・・・は、はい」
「一ノ瀬くん、言いますね」
「あなたも」




ふふ、って笑えてしまったけど、この先輩はとっても親しみやすくて先輩の中ではノリもいい。
まぁ素の自分にはしらけてしまったり呆れてしまったりと言ったことが多かったけれどそれでも嫌いではない。 芸歴だけ長くて三枚目でなんて言われててマラカスなんだけど、明るい良い先輩ではある。




「すみません、寿先輩があんまり可愛いものですから、からかいたくなっちゃって」
「か、可愛い?!僕が?そ、そうかなぁ〜!新たな魅力発見ってやつ?」
「調子に乗らないでください。さんも、なんでもかんでも可愛いって許していてはつけあがるだけです」
「つけあがる?!トッキーひどい!!!僕泣いちゃうよ!!」




うわーん!っと盛大に嘘っぽい泣き真似をするけれどもろばれである。
私が可愛いのに弱いのは仕方がないことだ。アイドルを目指す上で可愛いというのは一番大事なことだし。
アイドルである私にはそれを徹底的に研究し、自分に足りてない所を補うということが大事なんだよね。 化粧も衣装もしぐさも、どうすれば可愛く映るのかという所を細かく突き詰める。 それが私の、アイドルとしての としての集大成である。
コンプレックスまみれであった私をデビューさせたのは社長だ。 社長があのノリで「輝ける原石をみ〜つけまぁした!」なんていうその一言で私はデビューしたのだ。
今覚えば、道を歩いている一般人にあんな風に詰め寄ってくるのはちょっとした恐怖にもなるとおもうけれど。

デビューして数年経ってからこの早乙女学園というものがあるのを知り、「試しにYOUも入学、見学してみまーすかー?」 と言ってくれた為に、1度学生時代に戻ってもいいな、なんて思えて。
そうして私はのちにST☆RISHとなるメンバーたちに会うことになるんだけど。



・・・・・・☆
・・・・・・・・☆
・・・・・・・・・・☆



いくら有名になっても可愛いと持て囃されても、私は変わらずコンプレックスの塊である。
誰にも言わないし、言えないけど。
アイドルじゃないときは輝いても可愛くもないから、気がついてももらえない。
寿先輩にも会ったことあるんだけどな。―――会ったどころじゃなくて、仕事もした事あるんだけど。 もうちょっと・・・もう少しだけ若い時の嶺ちゃんと私で。

一ノ瀬さんもHAYATOの時は似すぎてるとか言われていたのをAクラスで聞いていて苦労してた様なのに、 私は気が付いてもらえることのほうがまれだ。やっぱオーラかなぁ・・・。 あとは化粧とノリの違いだろうか、 少し落ち込む。
悩んだってこのコンプレックスと離れられるわけじゃないってのは痛いほどわかってるはずなのに、また心が苦しくもなるのだ。



「ではでは、寿先輩。また、仲良くしてください」
「・・・・ん?もちろんだよ、後輩ちゃん☆」
「・・・・・後輩、はい。じゃあ私仕事あるので失礼します!」
「・・・・・・・寿さん、 さんに何かしたんですか?」
「え?」
「いえ、なんでもないです。私もこれで」














日陰に隠れた星を見つけて

「えっ、あ、え??!!ちょ、トッキー!!」
「知りませんよ!自分で考えてください」
「そんなぁ〜つれないこと言わないでよ〜」







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