金魚の件から、また少し経ってわたしはまた部屋に閉じこもる日が続いていた。
新選組の方たちは神様のきまぐれだかなんだか、と捉えてそっとしておいてくれている。
こうなった原因は沖田さんしか知らないのだから、当然なんだけど。あ、でも沖田さんの事だから誰かに 言ったりしてそうだなぁ・・・。ますます不審人物じゃないか、わたし。


わたしは元の世界にいる時に、なにも全てを愛し、全てを受け入れていた訳ではなかった。
だから、元の世界で金魚が死んだとしても涙を流す事はなかっただろう。そこまで純粋な気持ちを持ったまま 生きてきた訳じゃない。でも、ただ、自分のこの手が命を摘み取るという局面になった時、それがいかに小さな小さな 零れ落ちてしまいそうな命だとしても、わたしは確かに怖いと感じたのだ。


部屋に閉じこもりっぱなしでは、身体には良くない。 明らかに良くないと分かっていて、それでもやはり閉じこもったままなのは、わたしがまだまだ臆病なせいなんだと 思う。忘れてはいたが、ここは過去の世界。わたしが居たのはぬるま湯のような平和な未来の世界。
ここには慣れたと思っていたけれど、まだまだだったらしい。

ふぅ、と一息ついて、天井を見上げる。そんなわたしの耳に届いたのは、誰かが廊下を歩く音。
この部屋は一番奥の部屋なので、用事があるとしたらまぁ・・・必然的にわたしに、ということになる。 思わず顔をしかめてしまうのは、わたしが動くのめんどくさいとかそういう事じゃない。 また今日もだるいのだ。どうせ、この障子の外は輝かんばかりに太陽が照らしているに違いない。 ・・・ってあれ、なんかわたし引きこもり属性になっている気が・・・いやいや、そんな事は。

自分の意見を自分で否定するというなんとも間抜けな事を誰にも気づかれることなく(心の中だから気付くはずもないけど) やったわたしは足音が自分の部屋の前に止まった、という事に気がついた。
さっ、と障子が遠慮なく開けられる。照りつける外からの光に目が眩んだわたしの首ねっこを掴む奴がいた。 その人物は明るい声を出して、わたしを遠慮なく部屋の外へ引っ張り出す。


「さーあ、ちゃん。引き籠りの時間は終わりだよ。ほら、出た出た」
「え、ぎゃっ!く、首、首しまります」


わたしは呆気なく部屋の外の廊下まで引きずられた。どて、という鈍い音がして廊下に転がる。無様である。
うう、仮にも神様である前に女の子(・・・・うん、まぁ、性別上は女の子だよね!)にこんな仕打ちをするのは1人しかいない。 わたしは転がった姿勢そのまんまで、前に立つ人の顔を見上げる。うん!思った通りの御方です!


「おはようございます・・・沖田さん」
「うん?おはよう、ちゃん。なぁに、その辛気臭い顔。そういうの止めてよね」
「ごめんなさい!でも生まれつきこういう顔なんで、ほんとすみませんね!」


ぴき、と無理やりくっつけた笑顔の仮面が剥がれおちそうになるのを必死で留めながら、にっこりと笑う彼に、 笑顔で返してやる。しかしながら、自分→はいつくばり、沖田さん→仁王立ちではどっちが偉そうに見えるかだなんて、もう 結果は出ている。人が珍しく落ち込んで反省している時にまったくこの人は・・・!と、廊下をぶち抜きたい気分で 一杯だ。ああ、なんか沖田さんと関わると、知りたくなかった自分の一部がぼろぼろと出てくるような気がするよ・・・。
でも一体全体この人は何の為に、わたしの所まで来たのだろうか。単にからかいたかっただけとかそういう事を言われたら、 前回の反省も吹っ飛んで、雷落としてしまいそうで怖いよ(自分が)
でもそのまま睨んでいてもどうしようもないので、よいしょ、と身体を起こしながら沖田さんに尋ねてみる。


「沖田さん・・・なにか、御用ですか?」
「御用って程のものじゃないんだけど、君の外出の許可が降りたからね。一緒に行こうと思って」
「はぁ、外出・・・。って、一緒、ってなんですか、一緒って!」
「なんですか、って。もちろん決まってるよ。僕と、ちゃんで一緒に外に」
「(うわぁああああ、嫌な予感・・・!沖田さんとわたしの組み合わせなんて不吉しか生まれないよ)」
「なんか今、失礼な事考えなかった?」
「え?い、いえ、全然。そんな事ないです」


一生懸命取り繕ってはみたものの、沖田さんには全部バレている気がする。金魚の時は滅多にない沖田さんの真剣な顔 を拝む事になってしまったが、あれ以来はいつも通りである。いつも通りの読めない笑顔である。だから、沖田さん相手だといつも嫌な予感がする。
確かにこの前は凄く頼りになって、ちょっと安心とかしてしまったけれども、が! 相手は沖田さんである。一筋縄ではいかない沖田総司である。これは油断禁物。


「えっとそれで、沖田さんと一緒にどこに行くんですか?」
「別に特には決めていないよ。ぶらぶらしようと思っただけ」
「そうですか。・・・それにしてもよくわたしの許可出ましたねー」
「ああ、うん。それは簡単だよ。もし逃げようとすれば殺しちゃえばいいだけだから」
「そうですか。・・・・・ってえええ!あ、はい、えっと、あの、わたし逃げません、よ?」
「うん、僕としても斬らずに済めばいいなぁー、って心から思うよ」


・・・・嘘だ。たらりと冷や汗が流れるのを感じながら、わたしは思った。
あんな嘘くさい笑顔と、棒読みで言われても全然信憑性ないし!まぁ、逃げようと思ったらいつでも逃げられるのは確か。 ここを出て行きたくはないけれど殺されそうになれば、わたしは確実に逃げるだろう。 でもそんな関係で出掛けていいものなのか。というか、出掛けることに意味はあるのか。わたしが外に出たって 何も良い事はなさそうなのだけれど。
そして何故初めての外出が 沖田さんとなんだ。別に藤堂さんとか、原田さんだとか、斎藤さんだとかいっぱいいるじゃないか。なのに、何故。 ・・・頭の中、ぐるぐるしてきた・・・。


「じゃあ、とろとろしてないで早く行くよ」
「へっ?あ、は、はい!」


そう告げた沖田さんは、こちらを振り返りもせず歩いていく。わたしは慌てて、部屋の前に立てかけてある相変わらず ボロボロの傘を引っ掴んで、沖田さんの後を追いかけるのだった。ああ、今日も憎らしいほどいい天気!







初めて出た屯所の外は、やはり活気があって面白そうなものばかりが並んでいた。未来から来たわたしにとっては この通りそのものが博物館のようであって珍しいものを見つけては目を輝かせていた。
日傘を差した女と新選組の組長が揃って歩く姿は目立つのか、ちらちらと視線を感じたものの、ま、沖田さんだったら どこにいても目を惹く外見だから仕方がないよなぁ、と思い、傘で自分の姿を少し隠した。

隣では沖田さんが悠々と歩いており、そんなわたしをあの変わらぬ笑顔で見ていた。
一通り歩き周ると、沖田さんは「そろそろ、お茶にしようか」と言って茶店に入って行った。 どこまでも気ままな人である。沖田さんは背が高いのでこの人波を軽々と避けていけるが、わたしはそうもいかない。 人ごみに紛れそうになりながらも、なんとか沖田さんの背中を追いかける。 ・・・というか、この人分かっているのだろうか。わたしを逃がしたらヤバいって。
なのに先にひょいひょい行ってしまってこちらを見もしないなんて、ちょっと不用心では?などと、余計なお世話な 事を考えつつ、人にぶつからない様に、細心の注意を払いつつ人ごみを抜けた。そうしてすでに店先で座っていた 沖田さんの隣に腰を下ろし、ぎぎ、っと嫌な音を立てながら傘をそっと畳んで隣に置く。なんかこの傘もう寿命だな・・・。


「ここの団子、おいしいんだよ。特別に御馳走してあげるよ。どうせちゃんには払えないだろうしね」
「ありがとうございます。じゃあいただきます!」


まったくもってその通りだ。わたしは一文無しである。その嫌みにはどうにも対応する事が出来なくて、 有難く素直に手を伸ばした、と思ったらすかっと団子が消えた。見上げてみれば団子を片手ににやり顔の沖田さん。 上を向くと眩しいので、手を翳して反論しようとして口を開こうとしたら、 「僕が食べさせてあげる」と言ってそこに団子をつっこまれた。
・・・・もぐもぐ。反論の前に団子を咀嚼する。


「・・・うま!これ美味しい・・・!美味しいです」
「そう、それは良かった」


自慢じゃないがこの時代の甘味は一通り食べている(お供え物で)その中でもこの団子はなかなかのいい線だ。 おいしいし、ほっとする。 そうしてわたしが団子のおいしさを噛み締めていると、上からにっこりビームを浴びせられた。 この人は何考えてんだかさっぱり分からないが、でも少しはいい人なのかもしれない。 餌付けされている気分だが、まぁ、それは置いておいて。団子を食べた後に、お茶を一口。ふぅ、落ち着く。
「じゃあ、行こうか」と沖田さんが立ち上がる。わたしも慌ててその後を追う。無論、ごちそうさまの一言も忘れずに 付け足す。


「どういたしまして。まぁこれで君がもっと力になってくれると嬉しいんだけどね。ただの役立たずじゃなくて」
「あー、そうですね。出来うる限り頑張りますが」
「期待してるよ、ちゃん」







そんな会話を続けてたらたらと歩いていると、前の方から声が聞こえてきた。 周りの人は気になるけれど、でも関わるのは嫌なのか知らぬ振りだ。はっ・・・どこの時代も同じようなもんなんだなぁー、 と思っていると、ゆったりと歩いていた沖田さんが途端に早足になってそっちのほうへ駆けていく。 まま、まさかー・・・・、


「ねぇ、ちょっと。ここで騒ぎを起こすの止めてくれない?」
「ああ?んだよ、お前」
「別に僕としてはどっちでもいいんだけど。ちょうど斬りたいと思ってたし?」
「な、お前、やる気かよ!」


その後を追いかけていくと、案の定の状況だった。
悪人面の人達の足元には小さな子供。こいつら子供いじめてたのかい! さしずめ沖田さんはその子供を助けるヒーローの様ではあったが、 でもどうもそうは見えない所が悲しい所だ。わたしは、やんちゃをしている沖田さんの影に隠れつつ、うずくまったままの 子供の傍へと寄る。そう、なるべく触らないように気を付けながら小声で聞く。


「大丈夫?」
「・・・うん、総司が来てくれたし。平気」
「・・・総司?・・・えっと、沖田さんと知り合いの子?」
「うん、いつも遊んでやってるんだ」
「へぇ・・・」


遊んでやっている、という事は沖田さんはこの子に遊んでもらっているのか。ふむ。
沖田さんが子供と遊ぶなんて想像するだけでちょっと寒気がするが、目の前の子供がそうだと言うのなら、 きっとその通りなのだろう。なんていうか、沖田さん・・・ますます読めない性格だ。 わたしが来たときは殺す殺す斬る斬る役立たずのオンパレードなのに、こんな小さい子には優しく出来るのか。不思議だ。

そう思いながら子供を見つめながら考えていると、その子供が後ろを指して震えている。
なんだろ、と思ってゆっくり振り返る。・・・わぁ、すごい悪人面のおにいさんである。まさか、わたしから 金を巻き上げるつもりなのか、さっきも言ったけど一文無しなんだけどなぁ、と子供を後ろにやりながら思う。
つーか、沖田さんは何をしているのか、と見ると向こうの方で他のおにいさん3、4人と対戦中である。 ・・・ああ、すごく楽しそうな笑顔。輝かんばかりである。どうやらわたしだけで乗り越えなければならないらしい。


「おいおい、ねぇちゃん。あの連れの男どうにかしてくれよ」
「あはは。本当にどうしようもないですよねー。ごめんなさい、わたしじゃ止められないんです」
「そりゃしょうがねぇ。じゃあ、ねぇちゃんが何かしてくれるんだろーなぁ?」
「あはは、わたしお金ないので、何もあげられません。ごめんなさい」
「俺が欲しいのは、何も金だけじゃねぇぞ。ねぇちゃんが付き合ってくれればそれでいいぜ」


ずーっと見せたくもない笑顔をずっと顔に浮かばせているのはなかなかに疲れる。
そんな中、彼がわたしに触れたらどうなるか。やばいやばい、この人死ぬんじゃ・・・! わたしがこんなにいらだった気持ちでなければいいのだけれど、この日差しで余計な事に巻き込まれただけで、結構な ストレスである。髪がぴりぴりしているのが分かるのだ。おっと、と不注意でわたしに触れた瞬間この人黒こげになってしまう。 わたしまだ殺人者にはなりたくない。

そんなわたしの涙ぐましい努力を知らずに、目の前の男はわたしを引き寄せようと必死になっている。 それをするりするりと避けているのはかなりの奇跡だ。捕まったら、最後だ。(おにいさんの)


「ごめんなさい。わたし、あの、きっとあなたを満足させてあげる事出来ないと思うんですよねー、はい!」
「っち、こ、この!すばしっこい奴だな、大人しく、こっちに、くっ・・・!」


頑張って穏便に済まそうとしているわたしの努力を受け取ってくれ、とばかりにくるくると逃げ続ける。 周りから見たら結構不審だ。ああ、もう・・・!また不審者にはなりたくない。どうにかして諦めてくれないか、と 思った時だった。後ろから駆けだしていく空気を掴み取った。さっと、風が通り抜けてく。

「ねーちゃんに、手出すんじゃねぇ!」
「・・・ぐはっ!」

なんと後ろに庇っていた子供が男目掛けて突っ込んでいったのだ。丁度みぞおち辺りに決まった。 良い感じにダメージ大である。こんなに子供なのに、しっかりしてるな、偉いなぁ、と感心する。 むしろ沖田さんの方が駄目な大人である。襲われている女子供を無視である。なんて奴だ。・・・彼の場合、 わざと無視しているという可能性が捨てきれないけれど。


「くそっ、このガキが!良い気になってんじゃねぇぞ!どけっ・・・!」
「ぎゃ・・・!かはっ・・・・!」


男は容赦なく子供を吹っ飛ばす。地面を転がっていく小さな身体。
思わず駆け寄って行き助け起こした、とは、言っても身体には触れない方向で。危ないからね。 でもこの男、子供を蹴飛ばすとは、なんて奴だ。こいつ鬼か?いや、まだ鬼の方がいいかもしれない、 ほら「泣いた赤鬼」とかの鬼、すごいいい鬼だったよね。
もう駄目だ、許せない。いい加減にしろ、とばかりにきっ、と男を睨みつける。


「ほら、お前も無駄な抵抗なんてせずに、おとなしく来ればいいんだよっ!」
「誰が・・・・誰がお前の所なんぞの所に行きますかー!」
「・・・・っ!」


差していた傘を折りたたむ。そして、そのまま男の脳天直撃で振りおろす。
傘を通しているとはいえ、多少電流が通っているので、多分これで気絶くらいはするだろう。どす、っと鈍い音がした。 男はまさかわたしが反撃するとは思っても見なかったのだろう。綺麗に直撃して、すこーん、とぶっ倒れた。 無様なものである。女子供を虐めるとこういうことになるのよ。華麗な勝利である。思わずポーズ取りたくなった。
ってそんな事してる場合じゃないや、子供は大丈夫か、と振り返る。案外平気だったようで、立ち上がっている。 その様子を見てほっと、胸をなでおろす。


「すっげー!ねーちゃん強いな」
「へ?え、う、うん、ありがとう。でも大丈夫?ごめんね、」
「ねーちゃん強いのに、すっごい弱気だなー!オレなら大丈夫、これくらい平気平気」
「ありがとう。・・・でも痛かったよね。・・・わたしのせいで・・・、」
「だから平気だって!ねーちゃんのせいじゃなくてねーちゃんの為にオレは戦ったんだからな」
「・・・!」


なんていう殺し文句・・・!齢5、6歳でそんな事が言えるのか・・・!この子恐ろしい子になるよ。 きっと将来は原田さんみたいになるよ・・・さすがだ。今からどんなふうになるのか楽しみではある。 勝手ながら、沖田さんの影響を受けずにこのまま素直に育ってくれる事を願うばかりだ。







その後、名残惜しそうにこっちをちらちらと見ては帰っていく子供を手を振りながら見送った後(あ、名前とか聞いてないや) わたしはお得意の笑顔で沖田さんを見た。 そんな彼にも思うところがあるのか、わたしと目が合うと若干目線を横に逸らした。どうやら1人でやんちゃしてた事に 少しは罪悪感があるのかもしれない。「沖田さん、」と呼びかけると、その肩がぴくり、と動いた。


「か弱い子供を放っておくなんて、どういうことです?」
「・・・か弱い?・・・あはは、冗談でしょ」
「まったく、命の危機でしたよ。本当に危なかったんです」
「助けに行きたいのはやまやまだったんだけど、僕もあの人数相手するの大変だったから」
「その割に楽しそうでしたが。でも・・・心配したんですよ」
「・・・・うん、まぁ、」
「こっちは、はずみでおにいさんを殺しちゃうんじゃないかって、心配だったんですから」
「・・・あ、そ。心配だったのは男の方の命って訳か・・・ん、」


沖田さんは、なんとも歯切れが悪そうにそう呟いた後、黙りこくってしまった。
なんだろう、と思い彼の視線の先を見ると、自分の手元にある傘だった。 残念ながらもう傘は差せる状態じゃなかった。もともとボロボロだったのに加え、打撃と電流を流した為に 使えるような代物にはもうなっていなかったのだ。 あーあ、とうとう駄目になっちゃったか、と閉じたまま手に持っていたのだが、どうやらそれが沖田さんの目に留まったらしい。


「それ、傘・・・さっきの男殴った時の?」
「やっぱ見てたんじゃないですか。さっき相手するので忙しくて、とか言ってませんでした?」
「あはは、・・・でもまさかちゃんが男を傘で殴るなんて思っても見なかったなぁ」
「それしかなかったんですよ。どうしようもないじゃないですか」


まさかこんな街中で雷ぶっ放す訳にもいかないでしょう?と言うとそれを遮るように沖田さんの声が被さる。 沖田さんは自由気ままな感じがするけれど、わたしの言葉を無理やり遮ったりする事はなかったので、 不思議に思って上を見る。見上げると沖田さんはなんとも言い難い表情をしていた。なんだ、なんだ。沖田さん、 どうしたんだ。


「あー、うん。その・・・ご、ごめん・・・」
「いえいえ、使えるものは使わないといけないですから。背に腹は代えられんってやつです」
「うん・・・・」
「って・・・は?えと、そのど、ど、どどどどーしたんですか、沖田さん!ってか今の本当に沖田さんですか?」
「失礼な子だな、君。もしかして、喧嘩を売ってたりする?」
「だ、だって・・・あの、その・・・」


普通に会話を沖田さんと続けた後、気付いた。ん?あれ、沖田さんが・・・今、沖田さんがわたしに「ごめん」って? 沖田さんが謝るだなんて・・・!ちょっと、鳥肌立ってしまった。あ、あや、謝る?!肺に空気が通るはずが、 変な所に入ってむせた。 かなりびっくりした。彼がわたしの事を、大して良く思っていない事くらいは分かっていただけに、 驚愕せざるを得ない。どうした、沖田総司。沖田さんは、わたしの事をのたれ死ねばいいとか思ってそうなのに、 こっちが逆にびっくりした。
そのわたしのびっくり具合がどうも彼のお気に召さなかったらしい。またいつものあの笑顔に戻り、にこーっとした 表情で話しかけられる。ああ、いつもの沖田さんである。変わらない。


ちゃん」
「・・・は、はい!」
「ちょっとこっちに来て」
「は、はぁ・・・なんですか」


恐る恐る沖田さんの傍に寄って行くと、あの変わらない胡散臭い笑顔のままで、彼はわたしの首をぎゅぎゅっと絞めた。 そんなにわたしの言動が気に入らなかったのか。笑顔なのに青筋が立っているように見える。 こ、怖い・・・!そしてわたし首絞められるの多くないですか。つーか痛くないんですか、ビリビリしませんか?
そんな事を口にする事もできないわたしは、そのまま引きずられながら屯所への道のりを歩むのだった。








心の底まで鳴り響け




back