「あっはははっは!・・・ば、バッカだなー!は!自分で作った穴に落ちるなんて・・・!」
「う、うる、うるさいですよ!黙ってください、藤堂さん!」
「だよねー、僕が見つけなかったらあのまま夜になっても帰ってこられなかったよね」
「沖田さん、忘れてください!何も喋らないで、口を開かないでください!」
「お前という奴は・・・ふぅ。まぁとにかく無事なら良い」
「す、すみませんでした斎藤さん・・・。ご迷惑を、」
「だーから、。俺たちはそんな事思ってねぇって。心配したぞ?」
「うう・・・ありがとうございます。原田さん・・・!やっぱ原田さんは優しい・・・!」
「お前、ちょろちょろ動き周るんじゃねぇぞ。探すこっちも大変なんだからな」
「はっ、土方さん!お、お忙しいのに本当にごめんなさい・・・!」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか、丸く収まったって事でよ!なぁ、ちゃん」
「永倉さん・・・ありがとうございます。永倉さんもいい人・・・!」

「ねぇ、なんかまるで僕たちが悪い人みたいな感じじゃない?ねぇ、平助」
「え?!オレも?オレは関係ないんじゃ・・・」
「だってさっきからちゃんの態度の違い・・・これ、どう言う事?僕が見つけたんだよ、なのに何で?」
「し、知らねぇよ!そんなんオレに言われたって・・・総司がいじめるからじゃねぇの?」
「僕が?いつ?むしろ良い事しかしてないような・・・、」



その後、発見されたわたしは、縄で吊られてその穴から出る事が出来た。
穴から出て連れて行かれた先は、幹部の皆さんがきっちり集合していた。皆さんお忙しいのに本当にわたしのどじで 御手をわずらわせてしまって申し訳ない。申し訳なさでいっぱいになって小さくなる。


そんなこんなで、雨に濡れた身体は冷たくて、わたしが、がたがたしているのを見た土方さんが、そっと羽織を被せて 「風呂に行け」と言った。うわー、初めて土方さんとの交流をしたかもしれない。
するとその言葉に反応した原田さんが「風呂まで連れていってやるよ、」と手を差しだしてくれた。 反射的にその手を掴もうとして、途中まで伸ばして、そしてその危険性に気が付いて引っ込めた。 駄目だ、触れてはいけない。曖昧にへらり、と笑ってどうにかこうにかこの気まずい雰囲気を壊そうとした。・・・無理である。
・・・原田さんは少し残念そうに笑って、そして同じくわたしと同じように手を引っ込めた。・・・申し訳ない。

それを見ていたのは、何も原田さんだけじゃなかった。
その場にいた全員が見ていて、それでいて、何も言いださなかった。







「じゃあ、俺たちで見張っててやるから、今のうちに温まってきな」
「お、ちゃん。ここはどーんと、俺に任せときな!」
「新八・・・俺は、お前がいると逆に不安だけどな」
「・・・な!し、失礼な奴だぜ!聞いたか、ちゃん。俺はそんな卑怯な事しねぇぞ。安心してくれ!」
「卑怯な事って・・・なんですか?」
「へ?あ、そりゃ、えっと・・・!・・・・早く風呂に行っちまいな!」
「あは、永倉さん。冗談ですよ。分かってますよ、永倉さんが良い人だ、って事くらい」
「・・・!」


では、お心遣い感謝します、と言って風呂場へ向かうを見送りながら、俺たち2人はぼけー、っと立ったままそれを 見ていた。彼女の小さな背中が、戸の向こうへと消えていくのを確認してから口を開く。


ちゃん、今笑ったな・・・。左之、神様とかなんだとか言ってたけど俺にはただの女の子にしか見えねぇよ」
「そうだな・・・あんなに小さく見えるが、腹には色々抱えてんだろうさ。どうにも出来ないのがもどかしいけどな」
「左之、・・・お前器用なくせに肝心なところは不器用だな」
「新八、お前には言われたくねぇよ。この不器用の塊が」
「っだと?!俺は俺なりになぁ!一応・・・!」
「・・・分かってるよ。あいつの事をなんとかしてやりてぇよな」
「なんとかなんねぇかな。ちゃんにとって、今の状況は苦しいだけだと思うからよ」







「なぁ、一くん。一くんはあいつの事・・・の事どう思ってる?」
「なんだ平助。追いかけてきたと思ったらいきなり、」
「いきなりじゃ・・・!オレは・・・!」
「平助、・・・俺とて何も思っていない訳ではない」
「そっか。じゃあ、どうすればは・・・」
「・・・それを考えるのは俺たちではない。彼女自身の問題だ」
「そうだけど、オレは見ているだけってのが耐えられないんだよ!」
「耐えられない・・・何故そう思う?俺たちでは解決しようがない問題だろう」
「一くん・・・・」
「自分で乗り越えなければなんの解決にもならん。それを甘えて流そうとするような奴ならばそれまでと言う事だ」


そう言い切った彼の瞳はその厳しい言葉に反して、少し優しくなっていた。 彼には彼の考えがあって、と接しているのだろう。だから厳しい事を言われていても一くんの事をは 信頼している気がする。彼は芯がぶれないから。自分とは違う。
でもよく分からないな、と平助は呟く。は確かに神様だ。だけど、神様じゃない部分もいっぱいあると思う。 普通の女の子である部分も持っているし、なにもかもが万能、全能な感じはしない。苦手なこともあるし、辛い事が あったらきっと泣いてしまうような弱い面も持っている。・・・そこを自分たちは忘れてやいないか。そう問いかける声が 頭の中を巡る。
それでも、そうあった状況だったとしても決しては自分たちの前では涙を見せないのだろう、と漠然と思う。 良く分からない、に包まれた彼女だったけれども、その彼女の軸は決してぶれないのだ。
例え、もっと頼ってほしい、もっと色々相談してほしい、もっと守ってやりたい、もっともっと―――そう、思っていてもだ。 それは少し悲しい事で、でも仕方がないことなのかもしれない。







久々にゆっくり風呂に入り体も温まった。あとはゆっくりと寝るだけだ、と思い風呂の見張りをしてくれていた2人に お礼を言って自室への道を歩きだす。ひんやりした廊下をぺたぺたと歩けば、これからの事が頭に浮かんだ。 わたしは一体どうする事が一番良いのだろうか。

思えばここに来た当初は目標やらここにいる意味なんかよりも生きる事に必死だったので、そんな事が 頭に浮かびもしなかった。・・・なのに。今はどうだろう。この状況に慣れて、余計な事を考えてしまう時間が増えたから だろうか。
この力は何?なんのために?・・・そんな事を思っても誰も答えてくれる者などいない。 自分の事を分かるのは自分だけだ。永遠にこの状態が続くなんて思わない。だけどいつ終わりが来るのかも分からない。
考えに耽っていたわたしは、そんな後ろ姿を見つめている誰かの存在に気が付く事はなかった。


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そろりと障子が開けられて、中に滑り込むように誰かが入ってきた。
その人物はゆっくりとその場に座った。そして、目の前で眠る彼女をじっと見ていた。 彼女の回りは雷が覆っており、ときおりバチバチと目を光らすように電撃が走っている。 神秘的だという市中の人間の言う事が少しなら分かる気がするのはこんな時だ。
そんな厳重に守られた当の彼女はすやすやとは眠ってはいない。その寝息と共に漏らす声が決して安眠ではないのだと 知らせるのだ。

そんなにここにいる事が辛いのなら出ていけばいい、と訳もなくいらいらする。 彼女は普段負の表情はまったく見せないので、そのせいかもしれない。時折見せる少し陰りがある表情を見ても同様に、だ。 苦しげな表情に近づいていこうとすればビリっと稲妻が威嚇するようにその身を守っている。・・・近づいてもどうにもならないのは 分かっているはずなのに。


「僕は・・・よく分からない。ねぇ、ちゃん。君が・・・まだ分かっていないんだ」


ああ、この力がなければこの子は安らかに過ごすことが出来ただろうに、と思う。
だけれどもその力がなければ確実に彼女は今、自分の側にはいないだろう。
びりり、びりり、と警戒の音を鳴らす雷を無視して今度はそっと彼女の額に触れる。彼女はいつだって雷によって守られていて、 だけどそれ故に触れる事は許されない。守られているものに阻まれて、彼女は自由にはならないのだ。 だから自分から触れようとしないし、触れてしまう事のない様に、と壁を作って踏み行ってこない。
ひりひりと多少痛みを上げる手のひらを無視して、そのままそっと彼女のさらさらとした髪を梳く。
・・・なんとなく寝息が穏やかになったような気がする。それだけで少し、・・・・いや、いい。言わないでおこう。

誰よりも強いのに、誰より弱くて。
だからそんな君が気になってしまうのかもしれない。







撓う柳の強さは如何ほどか




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